MESSAGE FROM THE SEA

再生のしるし
水俣の海を彩る生命たち #3

2022年8月31日
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見返りを求めず、弱者を守るエビクラゲ

夏の海にはいろんなクラゲがやってくる。春から現れるミズクラゲは、海藻の森のなかに数え切れないほど出現するが、このエビクラゲは、群れをなすことなく単体で現れることが多いから、出会えたときはこの機会を逃すまいとさまざまな角度から撮ってしまう。

クラゲには小魚や小エビも住んでいることが多く、その姿を観察するのも楽しみのひとつだ。クラゲの傘の下で暮らしている幼魚やエビたちは、クラゲの触手にある毒のおかげで天敵から身を守られているが、クラゲのメリットはあるのだろうか。考えても私の知恵では思い浮かばない。

共生といえば、お互いに利益があって成立するもの。そう考えたらクラゲって心が広い。やってあげたらどこかで見返りや“ありがとう”を期待する自分がいないだろうか。クラゲの写真を見返しながら、自分自身の小さな器を反省してしまった。

最近の人間社会は、おかしな共生関係が見え隠れする。特に政治の世界は見返りのオンパレードではないか。水俣の海が汚されたとき、見返りや忖度など気にせず、ただまっすぐに被害者に、そして犠牲になった海に目を向けていれば、ここまで苦しむ人たちは増えなかったし追い込まなかったはずだ。

太陽の光に照らされて、小さな生きものたちといっしょに懸命に生きるエビクラゲがとても神々しい。
水俣の海で、器の広いクラゲの姿から、大切なことを見せられた気がする。

文・写真◎尾崎たまき(おざき・たまき)
熊本市出身。19歳のとき天草の海でダイビングを始め、海の持つ力強さや生きものたちの健気な生きざまに感動。地元の撮影スタジオで広告写真を撮影する傍ら、独学で水中写真に取り組む。本格的に水中写真を学ぶため上京。水中写真家・中村征夫氏のもと11年間研鑽を積む。2011年よりフリーランス。ライフワークである水俣、三陸、動物愛護センターなど、人といきものの関わりなど命をテーマに撮影に取り組む。