WATERMAN'S TALK

「海は守りたい場所」
海からの自然物を使って慣れ親しんだ海岸を緑地化

PEOPLE
2022年8月31日
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バリケードを大から小へ 安全に岬まで往来してもらうことが活動の最大の目的

WATERMAN’S PRESSの#015。今号ではもう一人の「今月のウォーターマン」を紹介します。葉山町のマリンショップ「ラ・セーラ葉山」を経営し、スタンドアップパドルの選手でもある秋山健次郎さんです。

長者ヶ崎・大浜海岸は、江ノ島、伊豆半島、富士山が望め、「かながわの景勝50選」にセレクトされるほどの絶景ポイント。そんな日本有数の景勝地で幼少期から海と共に過ごしてきた秋山さんは、長者ヶ崎海岸の岬に誰も立ち入ることができなくなったことに頭を悩ませています。そんな窮状を打開しようと、海からの自然物を利用して海岸の緑地を保全する活動に地道に取り組んでいます。

━━━ ご自身の活動について簡単に説明をお願いします。

活動している一番の目的は、(長者ヶ崎海岸の)護岸の下にある立ち入り禁止のバリケードを大きなものから小さなものにだんだん変えていくためです。それをするにあたっては、岸壁の方に人が立ち入らないように、皆さんに理解していただく必要があります。岬の方は、トラスト緑地といって保護緑地になっているので、立ち入るためには、清掃活動や緑地の保全活動をするということが、立ち入る名目になります。

━━━ 岬には決められた人しか立ち入ることはできないのでしょうか?

はい、そうです。トラスト緑地というのは、かながわトラスト緑財団というものがあって、その財団の所有物になっています。活動申請をして、その財団から許可を得た人だけが立ち入ることができます。

━━━ バリケードを大きいものから小さいものにすることが、ご自身の活動にとって一番の目的とのことですが、最大の理由は景観という観点からなのでしょうか。

バリケードを小さくするためには、一般の利用者が落石地に立ち入らないことが重要になります。つまりは、地形を詳しく理解する必要があって、地形を詳しく理解すると、その先には景観があるという話になります。落石地があるというところは、自然上噴火をして、落石します。それが海に現れて破砕して小さな石に変わっていく過程で砂が作られていくので、当然ここ(長者ヶ崎海岸の岬)は落石をする場所です。落石地を通らずに安全な岬の方まで移動するためには海を渡っていかなくてはいけません。その利用が根付いていけば、自然と立ち入り禁止のバリケードが小さくなっても事故が起きないですし、景観も良くなっていきます。

━━━ この取り組みを始めたのはいつ頃からですか?

2019年6月に岸壁沿いに大きな落石があって、それから歩いていくことが危険となりました。歩いていけないことで立ち入りが禁止されるよりかは、海から渡って行けるような利用方法が浸透した方が結果的には立ち入る人がいなくなり、事故を防げるのではないかという考えからスタートしました。

岬の緑地手入れで一定の成果

━━━ 3年前から活動を初めて、これまでの手ごたえや課題があれば教えてください。

海を渡って岬に行ってゴミの回収や、砂の堆積の具合を調整するために石を作ったり、あとは緑化をしたりして、緑地の機能がしっかり発揮されるような状態に手を加えてきました。岬の方は、だいぶその機能が高まって綺麗になってきています。そこから1、2年経って、岬のほうの緑地の手入れが完了してくると、次はそこで繋がっている砂浜側の方を手入れしていこうということになりました。

今は、砂浜に芝が生えているところへ海に打ち寄せられた海藻をのせています。そうするとミネラルとして吸収されて、芝が増えていきます。芝が増えていくと、そこに砂が被ってさらに緑化が進んでいきます。岬の方は一般の海岸に比べれば、海から渡っていかないといけないので一般の利用の数が少なく、手を加えやすいです。逆に、砂場の方は、夏場などは一般の利用も多くなりますので、海岸の緑化という馴染みのない活動に対する一般の方の理解が必要となってきます。あとはその活動の成果が目に見える状態で、活動プランができると一般の方も参加しやすくなったりしますので、どちらも良い効果もあれば、それによって少しやりづらいところもあります。

━━━ 海からはたくさんのゴミなどが運ばれてくると思いますが、どんなものがありますか?

海から運ばれるものとしては、スポGOMI Oceanのイベントでも拾われた人工物のゴミ、海藻、あとは転石と言われる石です。砂ではなく石の状態のものです。あとは、流木なども運ばれてきます。海浜植生は、元々塩害に強い植物です。海藻は塩分に加えてミネラルも多く含まれており栄養分になりますので、それを海浜植生に乗せると養分として吸収することができます。

流木なども本来は、山から出てきた自然物ですので、植生のとこに置いてあげると、もちろん紫外線による腐敗もありますし、あとは土壌の生物により分解されることもありますので、その土壌生物を豊かになるきっかけになります。運ばれてきた転石より大きな石を少し植生の砂浜の高い位置に移動すると風よけになって、そこに植物も育ったりもします。海から運ばれてくるものはほとんどがその植生に有効活用することができます。

━━━ 植生の緑地計画は、自然のものを有効に使っているのですね。

そうですね。海から流れてきたものを有効に使って海浜植生の植生機能を高め、植生範囲を広げています。

どんな家族でも楽しく過ごせる海岸にすることが長期の目標

━━━ 海を維持するために素晴らしい活動を続けられていますが、今後の展望を教えてください。

短期的には、長者ヶ崎海岸にある植生の植生範囲を広げることが目標です。3年以内に今よりも範囲を広げ、ぱっと見た時でも緑の色が濃くなっていて、生えている木々の種類を多くしたいです。長期的な目標は、海に遊びに来たどんなご家族でも楽しく過ごせるような海岸にしていくことです。

マリンスポーツをする目的で海を利用されるのはもちろんですけれども、例えばご家族で海岸に来られた方というのは、お父さんがマリンスポーツをやって、奥さんが海岸でその姿を見ている。それはそれで素晴らしいことですけれども、海には様々な景色があります。例えば海浜植生の芝で日差しを避けることができれば、高い位置に行くと様々な木が植生しています。それらの木々の違いを見られるような海岸にしていくのもいいと思います。海から得られる恵みをスポーツでも景観でもどんな形でも良いので恵みを感じられる状態にしたいです。

━━━ 海と一体感のある景色を作っていくことが理想ですね。そうなると、自然との共存が大事ですね。

海浜植生がしっかり育っている海岸は、地下水で海に栄養がいきますし、砂浜の地形もしっかりしているところの方が、環境変化に強くなるので、海洋生物がそこに住みやすくなります。海一つとってもそれを形作っている様々な要素がありますので、そういったものが全て海岸の景色になっていけばいいと思います。

━━━ 最後の質問です。秋山さんにとって「海」とは?

私が幼い頃に父が他界して、その後母がショップを継ぎました。週末は母と一緒にこの店や岬の方で過ごすのが当たり前でしたが、そこに立ち入れなくなってしまうかもしれないということが自分の活動のきっかけです。岬で経験したことを、他の人にも提供してあげられるようになれたらと思います。海は育ててもらった場所ですし、守りたい場所です。