MESSAGE FROM THE SEA

再生のしるし
水俣の海を彩る生命たち #2

2022年7月31日
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わずかに残る、大切な渚

水俣は海と山が近い。市街地から10分も車を走らせると不知火海が目の前に広がる。たとえ山頂にいても30分もあれば海に到着できてしまう恵まれた環境だ。

入り組んだリアス式海岸は、海の生きものが集まる場所として昔からとても大事にされてきた。その大切な渚は、かつての水銀汚染による影響などもあり、埋め立てや護岸工事でほとんどが消えてしまったが、わずかに残る渚には生きものたちの賑やかな姿がいまでも見られる。特に春の季節は海藻が繁茂し、魚たちの隠れ家や産卵場所となる。

カタクチイワシも群れをなして、まるで追いかけっこでもしているかのように海藻の中を行ったり来たり。水俣では、このカタクチイワシの稚魚を獲るしらす漁が盛んだが、人間だけでなく海のいきものたちにとっても欠かせない栄養源でもある。昔に比べるとしらすの水揚げ量が随分減ったと、漁師さんたちが口をそろえる。生態系のバランスを考えると、ほかの魚も同様に生息数が減っていることは否めない。

とは言え、多くのいきものたちの命を支えるカタクチイワシが、こうして元気いっぱいに泳いでいる姿を見ると、水俣の海の力強さを感じずにはいられない。

文・写真◎尾崎たまき(おざき・たまき)
熊本市出身。19歳のとき天草の海でダイビングを始め、海の持つ力強さや生きものたちの健気な生きざまに感動。地元の撮影スタジオで広告写真を撮影する傍ら、独学で水中写真に取り組む。本格的に水中写真を学ぶため上京。水中写真家・中村征夫氏のもと11年間研鑽を積む。2011年よりフリーランス。ライフワークである水俣、三陸、動物愛護センターなど、人といきものの関わりなど命をテーマに撮影に取り組む。