CULTURE

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沖縄・座間味島
ホームゲレンデの海を守る

LOVE
2022年7月31日
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ウミガメと仲良くするためのマナーと工夫

僕らのホームゲレンデはアトリエギャラリーから歩いて1分の阿真ビーチ。気持ちのいい風を感じたり、青い空にかわいい雲を見つけたりしたら、カメラを持ってふらりと撮影に行く。ビーチには野生のウミガメたちが暮らしている。以前は「会えればラッキー!」という存在だったが、2004年に、1頭のアオウミガメが海草を食べに毎日のようにビーチの浅いところまで入ってくるようになり、やがて2頭、3頭と増えていった。

「ウミガメと泳げるビーチ」というクチコミが広がるにつれ、ウミガメ目当ての観光客も増えてきた。そこで、地域住民と協力して、ウミガメと仲良く泳ぐためのマナー看板をビーチ入口に立て、ウミガメを追いかけたり触ったりしないことはもちろん、近くで立ち泳ぎをすると海底の砂が巻き上がりウミガメが海草を見つけにくくなることや、ウミガメが最も警戒する息継ぎの時は特にそっと見守ることなど、ウミガメをより良く観察するためのアドバイスなどを掲示した。

また、ビーチにくるウミガメは全て個体識別して記録し、その増減などを行政に報告し、ウミガメの保護と利用の両立を呼びかけた。個体識別の情報はホームページや島内で販売しているガイドブックなどにも載せた。そうすると、1 頭1 頭のウミガメに愛着を持つ人が増え、生育環境である周りの自然も大切にしてくれるようになり、人々の海での身のこなしも謙虚になった。その甲斐あって、ビーチ周辺にすみ着くウミガメは順調に増えていき、ここ10年は十数頭で安定している。ビーチの海草の量とバランスのとれた生息数なのだろう。新たに入ってくるウミガメもいれば、すむ場所を変えて来なくなったウミガメもいる。ヒトは、この海の先住者であるウミガメたちへの敬意や思いやりを忘れずに、海を楽しみたい。

これまで阿真ビーチに2年以上すみ着いたウミガメの合計は40頭になる。長い個体は15年になるが、その90%以上は未成熟の個体だ。ビーチで若いウミガメたちがのびのび暮らしているのを目にすると、ウミガメの未来は明るいように感じる。しかし、全国で砂の流失に悩まされているビーチは多く、ウミガメの産卵に適したビーチは減り続けているという。また、生まれたばかりの赤ちゃんウミガメが暮らす沖合の潮目ではマイクロプラスチックが増え、餌と一緒に誤飲することで命を落とすことを懸念する研究者もいる。ウミガメが安心して世代を重ねていけるかは、まだまだ予断を許さない。自然の変動はしかたないが、人間活動の悪影響は心が痛む。

 
 

ビーチ本来の生態系を守る、在来生物の回復を手助け

外来植物の駆除も行っている。ビーチを利用する人が増えるにつれ、陸側から外来植物が侵入するのだ。島本来の植物でなく、海岸植物でもない外来植物がビーチに繁茂すると、雑然とした草むらになり、虫や鳥など生態系全体が変わってしまう。これまでは行政が定期的に草刈して景観を維持してきたが、草刈のような人為的な攪乱には外来植物の方が強く、繰り返すうちに外来植物の占拠が進み在来植物が減少。そのような植生は砂の保持力が弱く、台風の度に砂の流出を招き、ビーチはやせ細り、カニなど在来生物のすみかやウミガメの産卵場が失われてしまう。

そこで、僕らがボランティアで外来植物のみを駆除し、行政の草刈は最小限でお願いし、島本来の在来植物の回復を促すことにした。ここで大事なのは、少し外来植物を駆除して、そこに在来植物が生えてくるのを確認し、また少し外来植物の駆除を進めていくやり方だ。一挙に外来植物を駆除して地面がむきだしになるのはかえって生態系に悪影響を与え、だからといって駆除した後に在来植物の苗を植えたりすると自然本来の姿に回復するのを邪魔してしまうかもしれない。少しずつ外来植物駆除を進め、その環境に最も適した植物が自然に育ってくるのを待つのだ。

主にクリノイガやシロノセンダングサ、アメリカネナシカズラ、コマツヨイグサなどの外来植物を駆除すると、グンバイヒルガオやクロイワザサ、ハマアズキ、キダチハマグルマなどの在来植物が広がるようになってきた。特にグンバイヒルガオは潮風に強く、海側へとつるを伸ばして砂を保持するため、台風などの風波から砂の流失を防ぐのに大きな役割を果たしている。自然本来の植生は美しい。ビーチ利用者も自ずと植物を踏まないように気をつけるようになったため、海へと続く道は植物に縁取られた小道になり、夏にはグンバイヒルガオの花が彩りを添えるようになった。ビーチ入口の心洗われる景観は、海でのマナー向上にも一役買っている。

 
 

「持続可能な海の利用」という考え方

ビーチクリーンも十数年続けている。当初はゴミの漂着状況を見ながら1〜2週間に1度の割合で行っていた。「ビーチを美しく保つ」という意味ではその方法でも良いかもしれない。でも、流れ着いたゴミは風向きが変わると再び海へ出て行ってしまい、直射日光にさらされ劣化すると細かく砕けてマイクロプラスチックになってしまう。「地球環境のプラスチックゴミ問題」として考えるなら、流れ着いたゴミはできるだけ早めに拾った方がいい。そのため、今ではほぼ毎朝ビーチクリーンを行っている。拾ったゴミの重さの記録を付けるようになった2012年から2021年までのゴミの総量は4709kg。長さ350mほどの小さなビーチに、平均して年間約470kgのゴミが漂着していることになる。

長年、ビーチの環境保全活動をしていて感じるのは、以前は価値観の違う住民同士で「利用か自然保護か」の対立になることも多かったが、今は「持続可能な利用」へと流れが大きく変わってきていることだ。「持続可能な利用」とは「海を利用する人が率先して海の環境保全もしましょう」ということを意味する。海はみんなのもの。そのみんなとは、立場の違う人間同士だけでなく、ヒト以外の生きものたちを含めたみんなだ。それぞれの存在や命を尊重し、生かされていることに感謝し、同じ地球に生きる仲間としてともに仲良く暮らしていきたい。

その対等な一員として、ヒトはまず人間活動がもたらした我が身の後始末をすることが急務ではないか。みんなの場所は汚さない、壊さない、片付けるといった一人ひとりの基本的な行動が何より大切だと思う。ホームゲレンデと呼べる海を持つ人は、足繁く通うその海への愛情も人一倍だろう。そんな人たちの中には、僕らと同じように日頃からホームゲレンデの海の自然環境を守る活動をしている人も多いと思う。そんな日本各地のウォーターマンの活動がもっともっと広がればいいなと期待している。


トップ写真◎あの雲をおいかけて:息継ぎのために水面に上がってきた「チュラテン」と名付けたアオウミガメ。2009年に阿真ビーチにすみ始めた頃は甲長35cmほどの小さな子ガメだったが、今では甲長65cmくらいまで大きくなった。こうして、なじみの生きものたちの成長を見守れるのは大きな喜びだ。
文中写真◎やさしさがつくる道:満開のグンバイヒルガオに彩られた海へとつづく道。この道を通ると不思議とみんな海でのマナーが良くなる。島本来の海岸植物が回復したことで台風などの風波による砂の流失も防がれるようになった。
文中写真◎海を漂うマイクロプラスチック:ビーチクリーンで見つけた流木。子ガメの食料となるトビウオの卵と一緒に大小無数のプラスチックゴミが絡んでいた。子ガメなど海で暮らす生物たちが誤飲する可能性は否めない。

写真・文◎髙松飛鳥(自然写真家ユニットうみまーる)
環境問題のドキュメンタリーや自然番組の制作ディレクターから自然写真家に転身し、2003年に井上慎也と自然写真家ユニットうみまーるを結成。沖縄・座間味島を拠点に、世界の海の生きものを幅広く撮影してきたが、現在は、もっぱら島の身近な自然に夢中になり、守りながらそのすばらしさを伝えている。海ではサンゴや海底などどこにも触れず中性浮力で撮影する「海にやさしい水中写真術」を実践し、ダイビング協会のサンゴ礁保全活動等にも参加。撮影の傍ら、毎朝のビーチクリーンや海岸植物保全に取り組み、島の自然がより良いものになるよう活動している。最新刊は『となりのウミガメ』。毎年刊行しているオリジナルカレンダーの人気も高い。