MESSAGE FROM THE SEA

再生のしるし
水俣の海を彩る生命たち #1

2022年6月29日
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コケギンポのまなざし

かつて死の海と呼ばれた水俣の海。水銀が混じった工場廃水が、長きにわたり水俣湾に流され続けたことが原因で、多くの命が奪われた場所だ。

しかし海の生きものたちはたくましかった。
1995年に初めて水俣の海に潜ったあの日、魚たちが楽しげに泳ぎまわる姿に、心から感動したことを今でも忘れない。人間が犯した過ちなど恨むこともなく、ただただ前を向き、命を繋ぎ生きている海の生きものたちのなんと眩しいこと。

そこには、穴から顔だけ出し、こちらの様子をうかがうコケギンポという魚もいた。小さいながらも大きく口を開け、外敵や私のようなダイバーに威嚇をする威勢の良さはなかなかの度胸だ。ただどんなに怒っても、愛嬌をふりまいているとしか思えないほどの可愛いらしさだが。

親指くらいの大きさで、想像もできないような過酷な環境を乗り越え、ここ水俣の海で繁殖を繰り返してきたコケギンポたち。彼らやその仲間たちの生きる場所を、もう二度と私たち人間の手で奪うことがないように、そう願う。

文・写真◎尾崎たまき(おざき・たまき)
熊本市出身。19歳のとき天草の海でダイビングを始め、海の持つ力強さや生きものたちの健気な生きざまに感動。地元の撮影スタジオで広告写真を撮影する傍ら、独学で水中写真に取り組む。本格的に水中写真を学ぶため上京。水中写真家・中村征夫氏のもと11年間研鑽を積む。2011年よりフリーランス。ライフワークである水俣、三陸、動物愛護センターなど、人といきものの関わりなど命をテーマに撮影に取り組む。