WATERMAN'S TALK

弱冠19歳にして世界を席捲
将来はウインドサーフィン界に恩返し

今月のウォーターマン
2022年5月31日
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PROFILE

  • 杉 匠真

    TAKUMA SUGI
    プロウインドサーファー

ウインドの世界で勝負しようと思ったのは、「上の世代がいなかったから自分でやってみよう」

WATERMAN’S TALK(今月のウォーターマン)は、毎号一人のWATERMANを紹介していく連載企画です。WATERMANの一般的な定義はありませんが、ここでは「海が大好きで、海に感謝の気持ちを持ち、海の窮状を目の当たりにして、海のために何か行動を起こしている人物」とします。12回目は若手プロウインドサーファー杉匠真選手です。

逗子をホームとする杉選手は、6歳から父親の影響でウインドサーフィンに親しみ、14歳の時に国内で史上最年少プロになりました。2018年にPWA YOUTH U-17 の年間チャンピオン、2019年にはハワイ、マウイ島で行われたALOHA CLASSIC でU-20優勝を飾り、着実に世界への階段を上っています。19歳の若さにして、日本のウインドサーフィン界を俯瞰し、その発展に寄与しようとする杉選手。海とウインドサーフィンをこよなく愛する若者が目標とする未来とは?

━━━ 逗子の海で生まれ育ってずっと海と一緒に過ごしてきたと思います。選手になってからは世界を含めた様々な海へ行くようになって、海に関する特別な思いなどはありますか?

小学校に入る前からずっと海で遊んでいて、海に関しては感謝しかないです。

━━━ 中高生くらいの時は一番遊びたい年頃。周囲からの誘惑などあったと思いますが、海から離れようと思ったことはありませんでしたか?

なかったです。ひたすら海でした。そもそも誘惑が海にありましたので。年は違えど海の仲間がいるから、学校が終わったらランドセルを背負ったまま海に行っていたりしていました。母親は自分が部活に入らないことを知っていたから、中学に入学してからすぐの学級懇談会で、部活に入らないことをきっぱりと宣言して、先生に理解してもらっていました。

━━━ 今ではウエイブで大活躍していますが、レースからフリースタイル、ウエイブに本気で目覚めて比重を置くようになったのはいつ頃からですか?

小学校4年生の時にジュニアユースの大会で優勝して、ウインドサーフィン仲間の池田健星、津野健介と一緒に表敬訪問した時に、健星は「五輪行きます」、健介は「フリースタイルで世界を目指します」と言って、僕は健星につられて「五輪行きます」と言ってしまいました。その時は本気で目指していなかったのですが、気づいたら小4以降はウエイブをやり始めました。そうしたら、すごくハマってしまいました。

━━━ 普通のサーフィンはやらなかったのですか?

まったくやらなかったです。逗子の環境でサーフィンをやるのは考えられないですね。鎌倉や江の島、茅ヶ崎に住んでいたらサーフィンをしていたかもしれないです。

━━━ 海の仲間の存在は大きいですね。

やっていて楽しいというのが一番です。環境もよかったですね。

━━━ 今のところウインドサーフィンは先が見えない業界だけに躊躇しそうだけど、ウインドサーフィンで生活していこうと思った決め手は何ですか?

今までは上の世代がいませんでした。お手本となる先輩の存在がいなかったので、現実味がありませんでした。だから、自分でやってみようと思いました。

━━━ コロナ禍が徐々に明けつつ海外渡航の制限が緩和される中、久しぶりに海外へ行ってどうでしたか。

昨年(2021年)の5月末くらいからスペインへ行き始めました。意外とコロナ禍は調子良かったです。コロナ禍でみんなが練習で海外へ行けない分、地元の逗子で一番ウインドサーフィンしました。ウインド人生の中で一番ウインドサーフィンした1年でしたね。時間的には海外へ行っているほうが(海の)コンディション良いのでたくさん乗りますが、日数的には一番多かったです。風が吹かなくても海に出て、ひたすら基礎を作っていました。すごくつまらないトレーニングだけど、友達とワイワイ楽しみながらやっていたので遊び感覚で楽しんでいました。

━━━ 昨年(2021年)よりも精悍な体つきになってきたように見えます。体づくりはどのようにしていますか?

ウェイトトレーニングはちょっと前までは人にお願いしていましたが、今は自分で管理しています。フリースタイルやウエイブは、必要な筋肉や体力がすべて違い、体重によっても変わってきます。ウエイブは体重が重く筋力があったほうがいいし、フリースタイルは軽ければ軽いほど日本では弱い風で良く走るので体重の管理をしないといけません。自分は冬場になると74キロ、春先は72キロくらいに落とします。この2キロ差で全然違うので、自分でしっかりと管理しています。

━━━ 世界へ挑戦し続ける中でワールドクラスのレベルを肌で感じていると思いますが、世界のレベルはどんな感じですか。

現実的に言うと、進化のレベルのスピードが一番早いのは日本です。技というか、基礎のレベルです。ポートだけでみるとスペインが強いですが、オールラウンドで見ると日本が強いですね。

━━━ ちなみに、レギュラーとグーフィーはどちらですか?

スケボーはグーフィー、サーフィンはレギュラーです。ただ、どちらも両方とも乗れます。

━━━ 残念ながら3位に終わった3月のIWT御前崎ジャパンカップで勝てなかったのは右からの風が不得意というわけではないのですか?また、ジャンプには問題なかったですか?

(右からの風は)不得意ではないです。ジャンプにも問題なく、むしろジャンプ大好きでウインドをずっとやっています。ジャンプに比べれば、波乗りはそんなに好きではありません。だから、ポゾ(大西洋の真ん中にあるカナリー諸島のポイント。風がよく吹き、ウインドサーフィンの人気スポット)は楽しくて仕方ありません。

━━━ スノーボードなど他の競技では技の進化が止まることを知りませんが、ウインドサーフィン界における技の進化について教えてください

今は完全に違う動きに特化しています。どういうことかというと、波の中でどれだけフリースタイルの技を入れられるかなど。だから、ほぼほぼウエイブの技は出尽くしたと言っても過言ではありません。その中で、自分特有の技をどれだけ出せるかが世界の潮流になっていると思います。

自らが動いて積極的にウインドサーフィンの魅力を発信

━━━ ウインドサーフィンは世界で盛り上がっていますが、日本ではまだまだマイナースポーツ。すごく面白いこの競技を日本でどのように盛り上げていきたいと思いますか?

僕も一番大きな問題だと思っています。国内で大会をやっても海外ほど盛り上がっていません。選手からしてみれば、多くの観客に見てもらった方が楽しいし嬉しいです。試合というよりも、一種のエンターテインメントの中でウインドサーフィンをしている感じです。そんな環境の中で、(試合の)動画を撮影して自分で編集して公開しています。4月に逗子で実施された大会では、自分たちで企画を考えて自発的にSNSで積極的に配信しました。大会の雰囲気も今までと違ったもので楽しめましたので、今後もこのようなアクションを続けていきたいと思います。

━━━ 話は変わりますが、海洋汚染の問題は世界的にも話題となっています。海外遠征したときに、海の環境問題について海外選手と話題になりますか?

大会の主催者側はすごく気にしています。選手側は、運営側の判断に従います。この間のカーボベルデの大会ではメインスポンサーが環境問題系のアパレル会社でした。選手が着るラッシュはゴミから作られた再利用のものを使用しました。さらに、大会会場ではない別のビーチで選手全員がビーチクリーニングをしました。ゴミ拾いは当たり前の行動ですが、集めたゴミを何とかできないかと考えています。ゴミを拾うことは当たり前になっているから、拾ったゴミでTシャツを作るなどすれば、ゴミ拾いがもっと楽しくなると思います。

海は自分を育ててくれた場所。“恩返し”のための実直なプラン設計

━━━ ウインドサーフィンと海を愛してやまないことがとても伝わってきます。ウインドサーフィンの魅力を教えてください。

楽しいと思う瞬間は、仲間とやっている時です。それはどのスポーツも同じだと思いますが、中でもウインドサーフィンというのは環境に左右されるスポーツですので、例えば「今日は風がないね」と風に関することなど同じ話題で話し合えます。こういうことは、他のスポーツではあまりないように思います。そして、風が吹いてきた時はみんなで海に出る。同じ風をみんなで共有するからさらに楽しく感じます。風とビーチをみんなでシェアできるのは、ウインドサーフィンの良いところですね。

━━━ 杉選手は、孝良、颯太の石井兄弟と共に世界を席捲し、世界のライダーからも一目を置かれるような存在になっていると思われます。ご自身のこれからのビジョンを教えてください。

短期、中期、長期の目標をいつも立てるようにしています。短期は、今年1年とかで年間ランキングでトップ10に入ることが一番重要。中期は、5年以内に年間ワールドチャンピオンになること。長期は、30年後に世界を目指す子が増えて世界へ羽ばたきやすいように、一番下のプラットフォームを築き上げることです。自分もウインドサーフィンに育ててもらっているので、恩返しできるように皆がウインドサーフィンしながら海外へ行けることがベストです。

━━━ 最後の質問です。杉選手にとって海とは?

自分を育ててくれた場所。海という存在が自分の中で一番大切です。

杉 匠真インスタグラム https://www.instagram.com/takuma.sugi/