全国に広がる「セブンの森」の軌跡
CO2削減の切り札となる山の森と海の森
セブン-イレブンの店頭にある小さな募金箱が、日本の環境保全を推進する壮大なプロジェクトに役立てられていることをご存知でしょうか?
1993年にセブン-イレブン・ジャパンによって設立されたセブン-イレブン記念財団(旧:みどりの基金)では、募金や寄付金を基に、環境をテーマにしたさまざまな社会貢献活動を行っています。その柱の1つとなる活動が「セブンの森」です。
2006年から北海道の支笏湖でスタートした森づくりは、これまで国内28カ所で行われています(うち11カ所は終了)。近年は「山の森」のみならず、湿原、草原、湖、そしてアマモ(海草)を増やす「海の森」づくりへと範囲を広げ、日本の豊かな自然環境を次世代に引き継ぐための取り組みがされています。
かつてない規模の森づくりは、世界中が気候変動の問題解決に向け「脱炭素」「カーボンニュートラル」を目指している今、改めて注目されています。
カーボンニュートラルとは、主要な温室効果ガスであるCO2(二酸化炭素)の排出量と吸収量を均衡させること。要するにCO2を出さないことと、CO2を回収することを並行して行うことです。
地域に親しまれる森づくりを目指して
しかし「セブンの森」の主目的は木やアマモを植えることではありません。環境保全活動を通じて「人と自然」「人と人」「人と社会」を繋げ、人と自然が共生する持続可能な循環型社会を目指しています。日本だけでも約21,300店舗ある「セブン-イレブン」のお客様は地域の方々です。セブン-イレブン加盟店オーナーと本部社員が、地方の方々といっしょにボランティア活動をし、関係性を作りながら社会貢献をしていくことに重きが置かれています。
「地域の自然環境やニーズに合わせて、10年、20年と長期的な計画で地域一体型の森づくりをしています」と語るのは、長年活動を支えているセブン-イレブン記念財団 事務局次長の松井敬司さんです。
じつは、森づくりを始めるきっかけとなったのは災害復興支援でした。2004年に発生した台風により支笏湖周辺の国有林7,000haが根こそぎ倒れる被害に際し、セブン-イレブン記念財団が官民の架け橋となり、森林再生を実施したことから始まったのです。
松井さんは、森づくり全体を構築するコーディネーターとしての役割を担ってます。1つのエリアが決定するまで、名刺は100枚近く必要で、市議会議員、商工会、漁業組合、観光協会、教育委員会、小学校など1人1人の方と対面し、協力・賛同を得ていきます。
そうしてスタートしたボランティア活動もまた地道な作業の連続です。専門家の監修の元、「山の森」では下刈りや間伐なども手作業で行い、「海の森」ではアマモの種の採取から、苗を作って海底に植えるまで、年間を通じた活動を行っています。なお、間伐材は自社ブランドの一部の紙容器や店頭募金箱の材料として活用し、さらなる地球温暖化防止に貢献しています。
肌で感じる環境問題
松井さんは、森づくりのコーディネーターとして各地に赴く中で、健全な自然がいかに大切かを肌で感じると言います。
「初めて東京湾で水中観察をしたとき、砂地に生きものなんていないと思っていたのですが、アマモ場にウミタナゴやタツノオトシゴもいて驚きました。さらに、アマモの生えている周辺の透明度がすごく高いことにも気づき、水の浄化もしてくれているんだと身をもって知りました。私が学生だった昭和40〜50年代は東京湾は公害汚染でヘドロの海でしたが、この数十年はきれいな海が蘇ってきたと感じます」
いっぽうで、環境問題の深刻さを目の当たりにする場面もあったそうです。それは「山の森」「海の森」の活動を同時に行っている「館山セブンの海の森」でのこと。千葉県の館山にある沖ノ島周辺では、だんだんとサンゴやアマモが少なくなっていました。当初その原因は、2019年9月に襲った台風による島内の倒木だと考えられていましたが、専門家の調査で「島の乾燥」も原因となっていると判明したのです。小さな島の山道はコンクリートで埋め固められていたため、雨水が土に浸透せず、水脈が目詰まりしたことでアマモなどが減少していたのです。
その後、ボランティアスタッフが島内のコンクリートの一部を剥がし、土壌改良をしたところ、ここ2年で森が再生しアマモも少しずつ増えてきたのだそうです。
次世代に繋げる新たな活動へ
セブン-イレブン記念財団は、2011年から東日本大震災の復興支援も続けていますが、2020年からは新たに「塩竈セブンの海の森」を展開しています。
「東日本大震災以降、『海は怖いもの』と地域の方々が感じてしまい海に目が向かなくなりました。そこで今一度子供たちに、海の素晴らしさや、塩竈に恵みをもたらす大切な存在だということを知ってほしいと、地域の方々と協働してアマモ場再生や生物観察などに参加してもらっています。これからは次世代に繋げる活動に変えていこうとしています」と松井さん。
「次世代に繋げる」ことも森づくりには重要な課題です。木が1本成長するのに約50年を要します。最近はボランティアの年齢層が若くなり、SDGsや地球温暖化が自分ごとになっているZ世代や、子供連れの若い夫婦の参加も多くなっているそうです。
さらに、セブンの森の素敵なところは、野生動物や地域の文化にまで配慮されているところです。植える木は各森ごとに違います。例えば、動物たちが人里に降りてこなくても豊かに暮らせるよう、実をつける広葉樹を植えた森もあります。針葉樹に比べると手入れは大変ですが、生物多様性への貢献になります。
また「宮城セブンの森」では、東日本大震災で被害を受けた森を再生させるため、宮城県の伝統工芸・鳴子こけしの材料となる水木(みずき)を植えました。それまで水木は他県から仕入れていましたが、これからは地元産を使用するという付加価値も生まれます。
松井さんは、「セブンの森」の先で起こるムーブメントが何より嬉しいと話します。
「1つのフィールド(森)ができると、みんなの思いが集中します。コミュニケーションを通じた相互理解から人々の自発性や共感が生まれ、地産地消、環境教育など、さまざまな動きが生まれてきています」
目下の目標はセブンの森を47都道府県の全てに広げることだそうです。
活動の詳細はホームページ(https://www.7midori.org/)や、セブン-イレブン記念財団が発行する「みどりの風」にて。
文◎坂部多美絵(さかべ・たみえ)
スキューバダイビング専門誌「月刊DIVER」元編集長。自らダイビングインストラクター・潜水士の資格を保有し、海のスペシャリストとして海外約30カ国 100回以上、国内は沖縄・伊豆を中心に200回以上取材。ダイビングトータル本数1500本以上。現在は海やSDGsをテーマにした執筆、トラベルエディターとしても活動。
写真提供◎一般財団法人セブン-イレブン記念財団
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