JWA REPORT

Committed to saving lives
ビッグウェイブサーフィンにおける影の英雄たち----
ペアヒ フイ セーフティークルー

HEROS
2022年2月28日
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もう仲間を失いたくない・・・ビッグウェイバーたちの思いが一つになった

現在世界で最も大きくパワフルな波とされているマウイ島ジョーズ、別名ペアヒ。年に数回しか割れないペアヒの波に、世界中からビッグウェイブサーファーが挑戦したいと集まってくる。この10年で、パドルでここの波にテイクオフして乗るサーファーが増え、そのチャージは歴史を塗り替えた。これほどまでにビッグウェイブサーフィンが発展したのはこの場所の安全を守るセーフティーチームのおかげだという人も多い。サーファーとセーフティーの信頼関係は、ジョーズにおけるビッグウェイブに欠かせない、かけがえのない絆と言っていい。

これまでのビッグウェイブサーフィンについて簡潔に説明しよう。大きな波に乗ることはいつの時代でもサーフィンというスポーツにおいて重要かつ大きな挑戦だった。60年代にオアフ島ワイメアの波に初めてサーファーが乗ろうとした時から何十年もの間、ビッグウェイブの頂点はワイメアであり続けた。最初はリーシュもなく、もちろんライフガードもいない。自分だけが頼り。巻かれたらボードと離れてしまいカレントの中を泳いで帰ってくることが海に出ることの条件だった。それが80年代になるとジェットスキーで牽引するトゥインサーフィンなるものが始まり、マウイ島のジョーズで波に乗るようになってからは、乗れる波のサイズが極端に大きくなったと同時にリスクも増大した。初期のトゥインではジェットスキーの馬力も弱かったし、ライフジャケットも着用していなかったが、大きな波に乗るためのギアやボードデザイン、スキルなどがトゥインサーフィンと共に開発されていった。パドルでジョーズにトライしてきたサーファーもいたが、それが広く注目されるようになったのは2010年〜2011年の冬になってからだった。そこから一気にパドルでの挑戦が始まった。パドルでテイクオフすることにこだわる世界中のビッグウェイブサーファーがジョーズの波に乗るために集まり、今ではビッグウェイブのワールドツアーの一戦が開催されるまでになった。シークレットだったジョーズのポイントは今やサーファーなら誰もが知る場所となり、地図にまで乗っている。時代の変化とビッグウェイブサーフィンの進化は目を見張るものがある。

とはいえ、その数十年の間に優れたビッグウェイブサーファーが世界各地で何人も命を落としたことも確かだ。マーク・フー、トッド・チェサー、ドン・ソロモン、サイモン・ミロウフスキー・・・彼らと親しかった仲間はいまだにその喪失感に苦しんでいる。そうした経験から、これ以上仲間を失いたくない、自分たちも危険を回避したいと、ビッグウェイブサーファーたちが集まって、それぞれの知識をこれからビッグウェイブに挑戦しようとしているサーファーたちにシェアするためにBWRAG(Big Wave Risk AssesmentGroup)という組織を作り、いろんな角度からビッグウェイブサーフィンの安全に関するミーティングや講習会を開くようになった。

特にパドルで今まで以上のサイズの波に乗るようになってからのリスクは計り知れない。いかに大怪我を回避するかが真剣に問われるようになり、ジェットスキーでのレスキュー、インフレータブルベストやスレッドといったセーフティーのためのギア開発も進んでいった。トゥインでは、すでにワイプアウトしたパートナーをジェットでピックアップしたり、危ないところから助け出すことは当たり前だったが、パドルサーファーたちを助けるために、ジェットで待機するというシステムが自然発生的に生まれたのだ。彼らがいなかったらビッグウェイブの限界はこの10年でここまでプッシュされることはなかっただろう。彼らが傍で安全を保証してくれていたからこそ、サーファーも思い切りチャージできるようになり、今の想像を絶するビッグウェイブでのパフォーマンスを可能にしたのだ。

ジョーズでパドルサーフィンが一般的になり始めたのは2011年の春。それまでに挑戦してきた少数のブラジリアンに加えて、シェイン・ドリアン、イアン・ウオルシュなどがパドルで乗り始めた。マーベリックスで死にかけた経験をしたシェイン・ドリアンは、意識を失っても沈んでしまわないよう、アバランチに巻き込まれた時に浮かび上がれるようなエアジャケットのようなインフレータブルベストを開発した。これにより素早く海面に出られて、2ウェイブホールドダウンの危険性も少なくなり、頭を打って意識不明になった状態でも浮かび上がってこられるようになった。ビッグウエイブサーフィンにおいて画期的なゲームチェンジャーアイテムと称していいだろう。

元々ビッグウェイブに乗りたい仲間同士、ジェットスキーに乗ってジョーズまで来たら、仲間が乗る時にはどちらかが見守り、何かあったらジェットでピックアップできるよう待機するシステムもでき始めた。ただしそれだけでは足りず、そのうちに波に乗らず、全体を見ながら危険な状況で助けに出ることだけにフォーカスするメンバーも現れた。初期のスカルベースチームやカイ・レニーのセーフティーチーム、デレク・ドーナー、ビクター・ロペス、オラ・カレン、ミルトン・マーチンソンなどがそれに当たる。

セーフティーチームの顔ぶれはジョーズで昔からトゥインしていたメンバーが多く、パドルでのアプローチはしないけれどトゥインから得た知識を駆使して安全にパドルサーファーをサポートする。大きな波に乗り、スポンサーからお金をもらうプロサーファーたちとは違い、彼らが陰の立役者として動く道を選んだのはなぜなのだろう?

人生で最高の瞬間を経験したサーファーとその喜びを分かち合いたいんだ

「俺がセーフティーに真剣に取り組み始めたのは確実に親友の死が影響している。マーベリックスの波に乗るためにカリフォルニアに行っていたカウアイのサイモン・ミロフスキーが海で亡くなったことを聞いた時、とてつもなくショックだった。と同時に自分がいたら彼を死なせはしなかったという悔しさが込み上げてきた。だからもう絶対に一人も死なせたくない、そういう気持ちで海に出ている。ジェットスキーは購入だけでなくメンテナンスにもお金がかかる。それを持っていると誰かを助けるために非常にリスキーなところに行かなくてはならない時もある。誰かに命令されるわけでもなく、全然知らない人がトラブルに巻き込まれていて、その場でセーフティーをしていたら、疑問の余地なく助けに行くしかない。その結果ジェットを岩場に打ち上げてしまうことだってある。誰か知らないサーファーのためにそんなことになってしまっても、誰も新しいジェットを買ってくれるわけではない。トラブってたサーファーも『助かったよ、ありがとう』と言うだけで済ませてしまうやつも少なくない。知らないやつを助けようとして100万円以上の損失になることだってある。それでもセーフティーをやめようと思ったことはないね。多分嫌なことや怖いこと以上に、その場での感極まる空気を共有できる一人でいることに喜びを感じるからだろうな」(コロマナ)

「ジョーズのラインナップでジェットを走らせていたら、みんなの表情を見ただけでこいつは乗れる、こいつはまだ準備が整っていない、こいつは危ない、とすぐわかる。海だったらどこでもそうだけど、特にジョーズは本物が際立ち、フェイクはすぐ見破られる。セーフティーチームはみんなの安全のために全体を見てるわけだから、特にそういうことには敏感になる。何も考えずにセーフティーが助けてくれるだろうという気持ちで無理なテイクオフを続けるサーファーもたまにいて、やってられねえやと思うけど、それでも助けなくてはならない。特にレフトの波にテイクオフで失敗すると助けるのも命懸けになるから、それを続けるやつは勘弁してくれって感じだよ。お金が欲しくてやってるわけでは決してない、でもセーフティーのありがたみを理解しているサーファーは十分な謝礼を払ってくれる。カイ・レニーがその良い例だ。頼りにされている、信頼されていると感じるし、彼が目指すところに行けるようこっちも全力でサポートしようという気になる。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、これが自分の仕事であり、もしかしたら命を落とすかもしれない危険もあることを理解しながらも、そんな状況になったら躊躇せず助けるために命をかけて動く覚悟を持っているよ。サーファーもセーフティーもそれくらいの気持ちでやっているから、そんな仲間だけが持てる結束もある。戦地の前線部隊のような感覚かもしれない。緊迫した状況の中、言葉や動作以上のレベルでコミュニケーションする感覚はなかなか他では得ることのできないものだし、それがうまく行った時に感じる喜びは人生のハイライトと言える経験なんだ。だから危険だけど、またジョーズに戻ってくるんだろうね」(カニオラ・カレン)

「世界一の大波に挑戦したくてジョーズにやってくるサーファーは多い。崖を降りて巨大なショアブレイクからパドルアウトするのは本当に危険で、実際の波に乗ること以上にそこで怪我をする人も多い。ジェットが何台もチャンネルにいるからきっと見て助けてくれるだろうと期待して出てくるサーファーも多いけど、セーフティーチームは大体誰か特定の人を見守るミッションを持ってそこに出ているわけで、ライフガードとは違うんだ。でも誰かがトラブってしまったら、それを見過ごすわけには行かない。だから理想は全てのサーファーがセーフティーチームを頼んでいることなんだけど、誰も知ってる人がいなくてコネもないサーファーにはそれは難しい。そんなことから、なんとかセーフティーチームと繋げたり、情報をシェアできるようにと『Peahi Hui』ができたんだ。僕自身が既に誰かのセーフティーをしていても、どこかからくる人が事前にコンタクトを取ってくれたら、誰か空いてる人を紹介することができる。何かあった時はジェットチーム全体で動くけど、例えばクローズアウトの巨大なセットが来て、全員が巻かれてしまった時、誰を一番先に助けるだろう?もちろん自分のチームのサーファーだ。一人だけ巻かれていたらその人を助けるけど、クリーンアップセットで大勢が巻かれたり、3本のセットで3人か4人巻かれただけでも、それをフォローするのは本当に大変なんだ。そんな時のためにもジェット同士がそれぞれの持ち場にいて協力体制ができるようゾーンシステムというのもできた。そんなことを夏の波がない間もトレーニングして準備しているんだ。サーファーが冬のためにトレーニングするのと同様、僕らもレスキューピックアップの練習とかジェットのメンテナンスや修理を学んだり、ジェット同士のチームワークなど準備することがたくさんある。元々トゥインでサーフィンをしていたけどパドルではやりたくない、というメンバーがセーフティーメンバーには多い。みんながパドルでやってる間はトゥインでは入れないけど、それでもこの大きな波のパワーに触れていたい・・・そんな気持ちもあるかもしれない。決してもらえる謝礼の金額のためにやっているわけではないし、そんなやつ一人もいないよ。端した金のため命がかかっていることをやる馬鹿はいない。乗れないからといってもその波の近くにいたいんだよ。仕事でもないのに何故そこまでやるかって? 人生最高の瞬間を経験しているサーファーたちとその喜びを分かち合い、彼らの夢を達成する助けになってるということが自分の1日を最高にしてくれるからじゃないかな」

とてつもない幸福感と平和に満ち溢れた気持ちになれる仕事

ジェットスキーをセーフティーのために使ったのはオアフのライフガードのリーダー的存在、ブライアン・ケアルラナが最初だろう。ジェットスキーをライフガードに取り入れて、どれだけたくさんの命が助かったことか。今ではジョーズはもちろん、ナザレ、マーベリックスなどでも、その場所の細かい癖や特徴を知り尽くし、サーファーの安全を守るためにジェットで走り回るセーフティーチームが確かに存在する。

ジョーズでは、近いうちにある程度のルールが生まれるかもしれないと聞く。例えば波が大きすぎて波にテイクオフできない時、トゥインなら楽しく乗れるけれど、サーファーが一人二人ラインナップにいるとトゥインはできないことになっている。でも意固地になっているサーファーが一人いることでいい波を何本も逃すことにもなる。そんな時に何人以下だったら乗ってもいいとか、風がここまで吹き上がったらトゥインにスイッチしていいなど、ガイドラインをある程度作ることが必要になってくると考えているようだ。特にマウイはパドルサーフィンとトゥイン以外にもウインドサーフィン、カイトサーフィン、フォイルなどのいろんな道具が入り乱れるから、その中をセーフティーチームがいろいろと考えてみんなが安全にチャージできる方法を模索し続けている。ジョーズにやってくる人数が多くなればなるほど危険も増え、またメンバーの把握も難しくなる。そんな中でこの一番大きな波が割れる場所で、まだ一人も死者を出していないジョーズのセーフティーチームはそのことを誇りに思っている。

セーフティーの中にはアンドレア・モーラーのように普段は救急救命士として働いているビッグウェイブサーファーもいる。もちろんライフガードも多い。彼らがラインナップにいたことで大怪我をした時すぐに正しい処置を受け大事に至らなかったサーファーも多い。それに感銘を受けて救急救命士を目指しているセーフティーメンバーもいる。サーファーだけがビッグウェイブに乗る喜びを感じられるのではなく、ラインナップにいる全員がチームでそれぞれがサーファーが乗った波を通じて一つになり、一緒にその喜びを味わっている。危険で恐ろしい波を前に、とてつもない幸福感と平和に満ち溢れた気持ちになれるなんて、なんだか不思議な感じがする。

「結局はAlohaなんだ。究極の愛、神の愛を感じる場所なんだよ。純粋に仲間を思う心、人の喜びを自分の喜びに感じ、自然のパワーの前に平伏し、ここに生きていることを感謝する。教会だね。」(コロマナ)

大波に乗ることを目指し、ジョーズを目標とするサーファーがいたら、来る前に必ず「ピアヒ フイ」に連絡をとってほしい。それが最低限の礼儀であり、まず最初の挨拶でもある。波に乗る乗らないは別として、その時点でどんな行動が必要か快く、そしてシビアに教えてくれるだろう。ジョーズに乗る前にやっておく宿題は山ほどある。しっかり準備してきたサーファーを彼らは歓迎しサポートしてくれるだろう。


※注
◎BWRAG:定期的にビッグウエイブにおいてのありとあらゆる角度でのワークショップを開催している。https://www.bwrag.com 
◎Peahi Hui :ジョーズのセイフティーチームとのコンタクトが取れ、インフォメーションも豊富。instagram @peah_hui