JWA REPORT

「海洋プラスチック」−−−
世界の海で今、何が起こっているのか?

INTELLIGENCE
2022年1月22日
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海に流れ込む800万トンのプラスチック

世界中で深刻化する「海洋プラスチック」。

現在、世界の海には、合計で1億5,000万トンを超えるプラスチックごみが存在すると言われ、そこへ少なくとも年間800万トンの新たなプラスチックごみが流入していると推計されています。800万トンといえば東京ドーム約18杯分。想像しがたい量のプラスチックが、毎年、海へと流れ込んでいることになります。

このままのペースでプラスチックが海へと流出し続けると、海中のプラスチックの重量は、2050年までに魚の重量をこえるともいわれています。

海に流れ出たプラスチックは波に打たれ、紫外線にさらされ、少しずつ砕けて、小さなプラスチックの粒子となっていきます。5mm以下になったプラスチックは、マイクロプラスチックと呼ばれ、顕微鏡サイズにまで微細化していきます。

プラスチックは、どんなに細かくなっても自然分解が難しく、数百年以上もの間、自然界に残り続けると考えられています。現在、世界の海を漂うマイクロプラスチック量は実に27万トンにものぼるといわれています。

日本は残念ながら、プラスチック大国です。日本のプラスチックの生産量は世界で第3位。さらに1人当たりの容器包装プラスチックごみ発生量は世界で第2位、という不名誉な立ち位置にあります。日本国内で年間に使用されるレジ袋は約300億枚と推計され、ペットボトルの国内年間出荷数は、2020年度で217億本にものぼっています。

また日本近海のマイクロプラスチック濃度は、世界平均の27倍にも相当するといわれており、実際に東京湾で釣ったイワシの77%からマイクロプラスチックが検出されたという調査結果もあります。

海洋ゴミの8割は街から

大量のプラスチックは、一体どこから流れ出しているのでしょうか。

海洋ごみの8割は街からきています。投げ捨てや回収ミスなどにより街に散らばったゴミは、風に飛ばされ、雨に流され、排水溝から川をつたい、最終的に海へと行き着きます。海に流れ込んだゴミは、海流に乗って海面を漂い、あるものは海底に沈み、またあるものは海岸へと打ち寄せられます。

そうした海洋ごみの大半を占めるのが、プラスチックごみ、特に食品の容器・包装袋など一度使って捨てられてしまう、いわゆる「使い捨てプラスチック」です。

現在、世界が消費する石油の20%がプラスチック生産に使われており、全世界で年間約3億トンのプラスチックが生産されています。その膨大なプラスチック生産量の実に36%が、容器包装用など、いわゆる「使い捨て」として生産されています。

マイクロプラスチックの発生源については、特定できない場合も多いものの、大きく次の3つに分けられています。

1つ目は、もともと大きなプラスチックが海に流出し微細化したケース。
レジ袋や食品容器などのプラスチック製品が、河川を通じて海に流れたり、浜辺や海上に投げ捨てられたりした後、紫外線や熱、波などによって劣化し、小さくバラバラになってマイクロプラスチックとなるケースです。

2つ目は、もともと微細なプラスチックが海に流出するケース。
製造されたときに、すでに5mm以下だったプラスチックで、研磨剤、化粧品、洗顔剤、歯磨き粉等の添加剤、マイクロビーズなどに用いられるもの。μm(マイクロメートル)の大きさで製造されたプラスチックは、回収が難しく、洗顔や入浴などで使用されるたびに排水溝に流れ、下水処理場をすり抜けて海にまで到達します。

3つ目は、衣類などの繊維屑が海に流出するケース。
衣類などのプラスチック繊維が洗濯や摩耗によって微細な繊維屑となり、洗濯排水として下水に流れ、下水処理場で処理されきらずに海に流出するケース。海中のマイクロプラスチックのうち、およそ35%が洗濯された合成繊維であるというレポートもあります。こうした繊維屑は、アクリルたわしやメラミンスポンジで食器を洗った際にも発生するといわれています。

日々の暮らしの中で、たとえポイ捨てをしていなくても、海の近くに住んでいなくとも、私たちは気づかないうちに、マイクロプラスチックを生み出してしまっている可能性があるのです。

私たちは「プラスチックを食べている」?

プラスチックが海にあふれることで懸念されるのが、生態系や人体への影響です。

海洋ごみは、絶滅危惧種を含む700種以上の海洋生物に被害を与えていると言われており、ウミガメで5割以上、海鳥では9割もが、海洋プラスチックを餌と間違えて摂取していると推定されています。

微細なマイクロプラスチックは、私たちが飲む水や、食べる食事、吸い込む空気にも混ざりこみ、知らず知らずのうちに私たちの身体の中へ入ってきます。米国では1人平均して、1週間にクレジットカード1枚分(約5g)、1ヶ月にハンガー1個分(約21g)のマイクロプラスチックを食べているというショッキングな研究も発表されました。

マイクロプラスチックの厄介なところは、そのデコボコとした表面に、有害な汚染物質をスポンジのように吸着させていくことです。石油由来のプラスチックは、海水中に混ざり込んだ汚染物質を次々と吸着してしまうのです。そうした有害物質には、毒物として製造および使用が禁止されているDDTやPCBといった残留性有機汚染物質(POPs)や、環境ホルモンの疑いがあるノニルフェノール(工業用洗剤の原料に使われる有機化合物)なども含まれます。ある研究によれば、マイクロプラスチックに吸着した有害物質は最大100万倍にも濃縮するといわれています。

海中の有害物質を取り込みながら、その「運び屋」となったマイクロプラスチックは、動物プランクトンや小魚、エビ、貝などの海洋生物に食べられ、食物連鎖を通じて、さらに汚染物質を濃縮し、私たちの食卓へと運ばれてきます。また微細なマイクロプラスチックは、濾過しきることが難しく、水道水ばかりでなくボトル入り飲料水からも検出されることが分かっています。

マイクロプラスチックに吸着した有害物質が、私たちの体内へと溶け出すこと等も危惧されていますが、これらの影響については、研究が始まったばかりで、未だ明らかではありません。しかし、このままマイクロプラスチックの増加が続けば、海洋環境や、生態系、人体への影響は間逃れないでしょう。

“リサイクル”の現実

世界では年間3億トン以上のプラスチックが生産されていますが、そのうち実質的にリサイクルされているのはわずか1割ほど。残りの9割は焼却、埋め立て、もしくは自然界へと流出しています。

日本では、プラスチックの分別も進んでおり、「プラスチックって、リサイクルされているんじゃないの?」と感じる方も多いかもしれません。しかし実際のところ、日本のプラスチックリサイクルには、焼却による「熱エネルギーとしての再利用」が多く含まれています。

日本では廃棄されたプラスチックの有効利用率が84%とされていますが、そのうち約3分の2が、プラスチックを燃やしてその熱エネルギーを利用する処理方法に頼っています。プラスチックを燃やすとき、その他の一般ゴミを燃やすよりも高い熱エネルギーが得られるため、「サーマルリサイクル」「熱回収」などと呼ばれ、リサイクルの取り組みの一つとされていますが、一般にイメージされる素材を再利用するリサイクル(マテリアルリサイクル)とは、根本的に異なります。

「サーマルリサイクル」や「熱回収」は、国際的にはリサイクルとはみなされておらず、84%とされている日本のプラスチックリサイクル率も、この「熱回収分」を除くと一気に27%まで下がってしまいます。

プラスチックリサイクルの壁

プラスチックのリサイクルの難しさは、その素材としての特徴にあります。

「プラスチック」という言葉は、それぞれ異なる特徴を持つ、さまざまな素材の総称で、用途によって使い分けられています。例えば、レジ袋にはポリエチレン(HDPE/LDPE)、 発泡スチロールや食品トレイにはポリスチレン(PS)、ペットボトルにはポリエチレンテフタレート(PET)、ストッキング、歯ブラシになるポリアミド(PA)、車や電子機器にはポリプロピレン(PP)など、私たちが日々の暮らしで利用するプラスチックをざっと挙げただけで、あっという間に5〜6種類になります。

これら種類の違うプラスチックは、それぞれ違う分子構造を持っているため、まとめて回収しても、純度の高いプラスチックを作ることができません。また仮に同じ種類を分別回収できたとしても、製造過程で添付された着色料などの違い、食べ物や油の汚れ、分別ミスによる異物の混入などが、再生プラスチックの品質を劣化させるため、リサイクルして新たな製品にするのは困難なのが現状です。

使用済みのプラスチックから品質が高く、利用価値のあるプラスチックを再生産するのは、現存の処理システムでは限界があります。石油を原料にして新たに作る方が、ずっと効率がよくコストも低いため、プラスチックの生産量は現在も増え続けています。実際のところ、多くのリサイクル施設でリサイクルされているのは、主にペットボトルや一部の高密度ポリエチレンボトルが中心で、その他のプラスチックは、ほとんど焼却されているというのが現実です。

同じように見えても種類が違い、まとめてリサイクルすることが難しいプラスチック
同じように見えても種類が違い、まとめてリサイクルすることが難しいプラスチック

プラスチック問題の根底にあるのは?

プラスチックの年間生産量は、過去50年で20倍に増大し、その累計は90億トンを超えています。残念なことに、これまで生産されたプラスチックのうち、すでに63億トンが、ごみとして廃棄され、さらに、プラスチック年間総生産量の32%、2500万トンという莫大な量のプラスチックが、ごみ処理ルートを抜けて自然界に流れ込んでいると推定されています。

こうした現状を見ると、海洋プラスチック問題は、途方もなく感じられます。

解決に向けて何ができるのでしょうか?

そもそも海洋プラスチック問題の根底に潜む原因は何でしょうか。

たとえば骨折をして、痛みという「症状」が出た時、痛み止めで「症状」を抑えて歩き続けたなら、怪我は悪化するばかりです。骨折という痛みの根本原因を治療してはじめて、痛みも和らいでいきます。

海洋プラスチックを「症状」として捉えるなら、その根本原因にあるものは何でしょうか?

それは、「人の生命が地球上の大いなる循環に支えられて存在している」という紛れもない事実から切り離された社会のあり方、もしくは私たち一人一人のあり方にあるのではないでしょうか。

私たちはこの地球という場、そしてそれが生み出す水や空気がなければ、生きていくことができません。広大な宇宙空間の中でこうした環境が与えられていること自体、奇跡といっても過言ではありません。その環境こそが私たちにとっての「ホーム」であり、その「ホーム」を無下にすることは、自分たちの生命そのものを脅かす行為です。

捨てたはずのプラスチックが、毒物をまとって水や空気に紛れ込み、自分たちの体内に入ってくるという、海洋プラスチックの不気味な現実は、「循環しないものを生み出し、使い続ける」という、自然の理から外れたあり方が、巡り巡って私たちの生命を脅かすことを知らせ、警鐘を鳴らしてくれています。

それはどこか遠くの話でも、興味のある人だけが考えればいい話でもなく、私たち一人一人の日々に直結する「いのちの問題」です。海洋プラスチックは、大きくて捉えどころのない地球規模の状況を、それを生み出す私たちのあり方の行く末として、示してくれているのかもしれません。

「循環する選択」がつくる世界

自然の理にそった「循環する選択」とはどのようなものなのでしょうか?

脱プラスチックに向けた様々な取り組みは、プラスチックを使わないこと=不便な生活、というわけでは必ずしもないことを明らかにしてくれています。

「野菜が長持ちする」と人気の蜜蝋ラップ(コットンに蜜蝋などを浸透させたラップの代替品)や、米国で大ヒットが続いている断熱ステンレスボトルなどは、プラスチックを使わないことが、「より快適になる」「利点が増える」といった選択になりうることを教えてくれます。

使い捨てを極力減らし、1年間で家族4人で出すごみが、ガラス瓶わずか1本分(=1ℓ)という暮らしを紹介した『ゼロ・ウェイスト・ホーム』(アノニマ・スタジオ)では、著者の暮らしぶり(https://zerowastehome.com/)が世界中で話題を呼びました。そこに描かれるのは、窮屈で不便な暮らしではなく、シンプルで心地よく、洗練された暮らしのあり方です。

プラスチックについて分かりやすく徹底解説された『プラスチック・フリー生活』(NHK出版)にも、プラスチックを使わずに暮らす工夫やヒントが網羅され、自分にも環境にも負担をかけない、快適な暮らしのあり方が提案されています。

地域単位、国単位など、大きな仕組みとして、プラスチックを削減する動きも、世界各地で始まっています。従来のプラスチックにかわるものとして、サスティナブルな素材や商品の開発、新たなリサイクル手法など、新技術の研究も盛んです。

地球という「ホーム」に暮らすあり方。

私たちは変化を求められています。

けれどその変化の先に、より安全で心地よく健やかな、全ての生命を輝かせる「ホーム」があることは、ひとつの希望かもしれせん。

Photo: Protea Zero Waste Store
Photo: Protea Zero Waste Store

 

 

 
◎参考文献・参考資料
・ Guidelines for the Monitoring and Assessment of plastic litter and micro-plastics in the ocean (国連環境計画)
・G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組と対策報告書(環境省)
・PETボトルリサイクル 年次報告書2021 (PETボトルリサイクル推進協議会)
・Assessing Plastic Ingestion from Nature to People (WWF)
・Production, use, and fate of all plastics ever made (Science Advances)
・「プラスチック資源循環戦略」の策定について(環境省)
・拡大生産者責任と企業の社会的責任 (NPO国際環境経済研究所)
・New report offers global outlook on efforts to beat plastic pollution (国連環境計画)
・海のマイクロプラスチック汚染(東京大学海洋アライアンス)
・The New Plastic Economy: Rethinking the Future of Plastics(世界経済フォーラム)
・No time to waste: What plastics recycling could offer (McKinsey & Company)
・『ゼロ・ウェイスト・ホーム ごみを出さないシンプルな暮らし』(アノニマ・スタジオ)
・『プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命』(NHK出版)

文◎内野加奈子(うちの・かなこ)
伝統航海カヌー「ホクレア」日本人初クルー。歴史的航海となったハワイ―日本航海をはじめ、数多くの航海に参加。ハワイ大学で海洋学を学び、自然と人の関わりをテーマにした執筆活動、絵本制作に携わる。著書に『ホクレア 星が教えてくれる道』(小学館)『星と海と旅するカヌー』『サンゴの海のひみつ』(きみどり工房)など。