MESSAGE FROM THE SEA

海の生物たちの
終わりのない宴 #2

PICTURE & WORD
2022年1月22日
main image

コスタリカの風物詩「アリバダ」に
ヒメウミガメたちの無事を願う

コスタリカの西端にあるオスティオナルの海岸には、毎年9~12月の下弦の月のころ、数十万頭にも及ぶヒメウミガメたちが産卵に集まる。スペイン語の“Arribar(到着)”を語源とする“アリバダ”と呼ばれる現象だ。重い体を引きずるようにして上陸し、後ろ足で時間をかけて丁寧に穴を掘り、50-60個の卵を絞り出すように産み落とし、そのあと掘った砂をしっかり戻してよく踏み固め産卵を終了する。全身全霊をかけて任務を全うしたウミガメたちは、再び重い体を引きずるようにして、やっとの思いで海へと戻っていく。 産卵するウミガメたちの周りには、クロコンドルが新鮮な卵を狙って集まっている。産み出されるとすぐに食べられてしまう卵、産卵中に死に絶え微生物に分解されていく母ガメ、孵化してすぐに鳥に食べられてしまう子ガメ…。行き延びたものだけでなく、死にゆくかれらもまた地球の生態系を支え、大きな意味で役目を果たしているのだ。 生まれたのち、かれらは遠く離れた海で20~30年ほど過ごし、産卵、交尾のためふたたび生まれ故郷のビーチに戻ってくる。それまで生き延びられる可能性はわずか0.1パーセント。今は、世界のウミガメの5割がビニールなどのプラスチックを飲み込んでいるといわれ、かれらが生き延びることに新たな障壁が立ちはだかっている。

「涼しい夕方から朝にかけて、多くのヒメウミガメたちが上陸して産卵し、帰っていく」コスタリカ・オスティオナル、2018年

写真・文◎高砂淳二(たかさご・じゅんじ) 自然写真家。1962年宮城県石巻市生まれ。海中から生き物、虹、風景、星空まで、地球全体をフィールドに撮影活動を続けている。「Planet of Water」、「night rainbow」、「Dear Earth」、「光と虹と神話」、「夜の虹の向こうへ」ほか著書多数。地球のこと、自然と人との関わり合いなどを、メディアで幅広く伝え続けている。ハワイの写真集「Aloha」~美しきハワイをめぐる旅~(パイインターナショナル)を、2月に刊行予定。