子どもたちと共に創る授業を目指して
三宅島で挑んだ教育活動
スノーケリングで海中を観察する前例のない授業
1996年から2000年まで、私は三宅島の小学校で海や森を学びの場とした教育活動を行いました。2000年に三宅島は噴火し全島避難となりましたが、避難中も伊豆の下田市田牛の協力を得て2003年まで毎年、夏休みに4日間ほどの海での活動を行いました。2021年現在当時の子どもたちは立派な青年となっています。
三宅島では、身近な自然を学びの場として、スノーケリングで海中観察したり火山から森林が形成されていく過程を観察したりする授業を実施しました。故郷の素晴らしさを知ることが豊かに生きることにつながると信じ、子どもと共に創る授業を目指しました。
海辺の観察活動はよくありますが、子どもたちがスノーケリングで海中を観察する活動は公教育においては珍しいものでした。総合的な学習の時間が告示されたのは1998年ですから、体験活動を通して子ども自らが課題を見つけ、解決していく探究的な学びの大切さを求める時代の要請にも合致していたと思います。
教育現場で前例のないことを教育活動として行うことは、簡単ではありません。必要に応じて若干の変更はあるものの「例年通り」というのが通例です。実施するためには、信頼できる協力者がいること、安全面を確保できること等をクリアし、教育的意義を理解してもらう必要があります。
子どもの成長のための原体験となるプログラムを考える
当時私のそばには、三宅島のネイテャーガイド海野義明氏、島在住の海洋学者ジャック・モイヤー博士という素晴らしい両名がいてくれたことが大きな推進力となりました。加えて当時の管理職がこの活動を理解し実施を決断してくれたことで実現できました。
四季を通して海中を観察し子どもが自ら設定した課題を探究していく活動は、子どもはもとより、それに関わった大人たちも地域の自然を教材とすることの意義を実感することとなりました。1999年には、6年生の子どもたちが隣の御蔵島の野生のイルカと泳ぐ活動を保護者・地域の協力を得て実施し、故郷の魅力について探究し発信しました。卒業後も海での活動を継続しようと子どもたちと三宅島マリンキッズクラブを立ち上げました。しかし、翌年大噴火となってしまったのです。
海での活動は陸上の活動よりもハードルは高くなります。しかし、海での体験で得られる喜び、感動、様々な感情とそこから展開していく学びは「主体的・対話的で深い学び」となるでしょう。これからの子どもたちが生きていく未来においては「誰かの行動を受けとめるよりも自分で行動すること、形作られるのを待つよりも自分で形作ること、誰かが決めたり選んだりすることを受け入れるよりも自分で決定したり選択したりすること」が大切だと言われています(「OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来~エージェンシー、資質・能力とカリキュラム」)。そのためには、黒板とチョークに象徴される昔ながらの教師主導の子どもが受動的にならざるを得ない授業を変えていく必要があります。ICTの活用等についてもさらに充実してほしいです。教育は変わらなければなりません。しかし、そのような変化においても本物の体験は大切です。
学校教育の範囲内だけで体験活動を考える必要はありません。特に海をフィールドにする場合、多様な人がかかわり様々な場所で子どもたちの原体験ともなるような活動が充実してほしいと思います。その際には「はじめにプログラムありき」ではなく、子どもたちといっしょに創っていけるような「はじめに子どもありき」の活動になるとさらに素晴らしいと思います。バーチャルの世界が充実すればするほど、本物の世界の重要性は増します。本物の海での体験を子どもたちにしてほしいと願っています。
文・写真(本文中)◎中村泰之(なかむら・やすゆき)
三宅村立三宅小学校勤務時(1996年〜2002年)に、ジャック・T・モイヤー氏、海野義明氏の協力を得て学校教育における海を学びの場とした教育活動を実践。第51回読売教育賞、第2回東京新聞教育賞受賞。現在、世田谷区立世田谷小学校 校長