JAN 2022 / #007

JWA REPORT

クリフダイバーにしか回収できない
海域のゴミがある

OCEAN CLEAN PROJECT
2021年12月19日
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PROFILE

  • 荒田恭兵

    KYOHEI ARATA
    ハイダイバー/クリフダイバー
    パーソナルトレーナー

世界に100人しかいない、ハワイの伝統を受け継ぐ「勇気ある戦士」

クリフダイビングあるいはハイダイビングというスポーツを知っている人は、日本ではまだわずかだろう。どちらも飛込競技から派生したスポーツで、クリフダイビングは崖や城壁などに設置された飛び込み台から海や湖に向かって、ハイダイビングは男子27メートル、女子20メートルという規定の高さのタワーからプールに飛び込む競技だ。

250年ほど前、ハワイの王が戦士たちに忠誠心や勇気の証を求めたことが始まりと言われるクリフダイビングだが、百聞は一見に如かず、まずは戦士になったつもりで、この動画を見てほしい。

クリフダイビングは、様々なエクストリームスポーツをサポートする、オーストリアのドリンクメーカー「レッドブル」が、2009年から「レッドブル・クリフダイビング・ワールド」を主催。以後、レッドブルが毎年開催しており、2016年には和歌山県白浜町の三段壁が会場に選ばれている。一方、ハイダイビングは、2013年の世界水泳選手権から加わったFINA(国際水泳連盟)公認の正式種目だ。

動画に映っているのは、日本で唯一のハイダイバー、荒田恭兵氏。ちなみにクリフダイビングに挑む「勇気ある戦士」は、世界に100人足らずというから、荒田氏は奇跡的に希少な人物の一人と言っていい。

今回のJWA REPORTは、そんな荒田氏の存在に注目した。理由は、彼がクリフダイビングを通じて、放置されていた海洋ゴミの回収の活動を続けていると知ったからだ。

━━━ まずハイダイビング、クリフダイビングを始めた経緯を教えてください。

僕は日本体育大学で飛込競技の選手として、国体の「青年男子高飛込」で3位になったり、日本選手権の「男子10mシンクロナイズドダイビング」で優勝したりしたんですが、日本代表として国際大会には出られなかった。それもあって、卒業後は選手としてやっていくつもりはありませんでした。そんな時、和歌山で開催されたレッドブルの大会でクリフダイビングに出会ったんです。もともと人がやれないこと、やっていないことにチャレンジしたいという性格なので、これだ! このスポーツの日本の先駆者になってやる! と、その場で決断しました。それで卒業後はすぐにオーストリアのハイダイビングの合宿に参加しました。基本的な飛込競技の技術は身につけていたので、3日目には27メートルを飛べるようになりました。

その後は2年かけて世界各地で様々な経験を積み、3年目となり、いよいよ実績を残してやるぞ、と意気込んだんですが、コロナ禍に見舞われ、日本への帰国を余儀なくされました。

東尋坊の崖付近の海洋ゴミは、僕が回収するしかないんです。

━━━ コロナ禍が続く今、国内でどのように活動されているのですか。

僕は富山県出身なんですが、ありがたいことに富山県体育協会の指導員の職を得て、飛込競技の体験教室を行なっています。こうした活動をきっかけに飛込競技を根づかせることができたらと思っています。ひいては、そこからハイダイビング、クリフダイビングに関心を持つ人々の輪が広がっていくことを願っています。

一方で、クリフダイビングの練習ができる場所を探し求めて各地を巡っています。今は福井県の観光地、東尋坊を拠点にクリフダイビングの練習を行なっていますが、東尋坊で初めてダイブした際に、ゴミがたくさん浮いていることにびっくりしました。同時に、これはこのままにはしておけないと思い、それ以来、クリフダイビングの練習と海洋ゴミの回収はセットになりました。東尋坊は、遊覧船が崖の付近を航行していたり、漁船も崖付近に近づいたりするんですけど、潮溜りのゴミを拾うことはできない。僕がやるしかないんです。

━━━ JWAは環境活動の一つとして、OCP(オーシャンクリーンプロジェクト)を展開していますが、岸壁に波が打ちつけるような海域のゴミには手が出せずにいました。ウォーターマンとして、どうしたらいいものかと悩んでいた時に荒田さんの存在を知り、とても勇気づけられました。

ダイビングスポットに浮遊しているゴミは、放っておくと僕たちアスリートの怪我に繋がります。また、漁船の故障を招く原因にもなります。日頃、海のお世話になっている僕たちが、海のためにできることをするのは当たり前のことですし、微力でも海の環境改善の役に立てるとすれば何よりです。僕は子供たちに飛込競技の楽しさを教え、それをきっかけにクリフダイビングに関心を持ってもらい、さらには人々の海への意識を高め、クリフダイバーだからこそ表現できる言葉で、海洋環境の今を伝えていけたらと考えています。

━━━ クリフダイビング、ハイダイビングに対する人々の関心を高めていくために、「飛込教室」以外に考えていらっしゃることはありますか。

ハイダイビングは、フィギュアスケートと同じように採点競技です。つまり技術の卓越性、美しさ、表現力・・・こうしたことを地道に磨き上げていくことで、フィギュアスケートのようにエンターテインメントとして、あるいはショーとして確立させることができると考えています。海外の選手は飛込の元オリンピック代表やシルク・ドゥ・ソレイユで活躍していた方など多士済々です。彼らに共通していると感じるのはショーマンシップが身についているということ。フランスをはじめヨーロッパでハイダイビングをはじめとするエクストリームスポーツの人気が高いのは、アスリート一人ひとりのそうした資質に起因していると実感します。

━━━ 来年5月には、FINA世界水泳2022福岡大会が開催されます。これをきっかけにハイダイビングに関心を持つ人が増えることを願っています。荒田さんのこれからのご活躍を期待しています。