海洋プラスチックごみから生まれた
トム フォードの革新的な腕時計

最近、新聞や経済誌などで「CSV」という言葉を頻繁に目にする。「CSV」とは「Creating Shared Value」の略で、「共有価値の創造」と訳される。この言葉の意味は「社会課題の解決に取り組みながら、企業価値を向上させていくこと」、端的に言えば社会貢献活動と経済活動を両立させる経営のことだ。こうした経営方針は、国連によりSDGsという考え方が提唱されて以来、日本の企業にも急速に浸透し、とりわけCO2削減に繋がる環境活動に取り組む企業が増えている。一般に、電力、ガス、鉄鋼など社会インフラを支える企業の活動が報道されることが多いが、昨年末、ファッション業界のメディアを中心に紹介された、ファッションデザイナーのトム・フォードの取り組みは、クリエーターならではのユニークな発想から生まれたサステナブルなプロジェクトとして注目に値する。

そのプロジェクトとは、トム・フォードが手がける最新カテゴリーである「トム フォード タイムピース」から、ケースとストラップを、海洋プラスチックごみだけを原料とする素材で製造した時計「トム フォード オーシャンプラスチック タイムピース」 を発売する、というものだ。未使用のプラスチックや海洋関連以外のプラスチックごみは原料の対象外で、すべてのプラスチックごみは回収場所が記録され、その輸送はカーボンニュートラル、スイスでの製造も太陽エネルギーを使用して行うといった、いくつもの厳格なルールのもと、この時計を1本製造するのに必要とされる海洋ブラスチックごみは、ペットボトル35本分に相当するという。

トム フォードは、「私たちの顧客は知的であり、現在の地球が直面する問題と人間が地球を守る責任に対して高い意識を持っている」と評価し、彼らの意識を最も刺激しうるテーマとして海洋プラスチックごみの問題を選択したのだろう。そんな推察を裏付けるような彼の言葉が残っている。「人間が排出しているオーシャンプラスチックの量は、おそらく我々の環境に最も大きな打撃を与えています。『オーシャンブラスチック タイムピース』は、1000個製造・販売するごとに約220キログラムものブラスチックごみを永久に除去することになります。製品を所有することで、地球環境の改善に直接的な貢献ができるのです!」。