WATERMAN'S TALK

「子供たちが、海を大切にする大人になることを願って」

今月のウォーターマン
2021年9月11日
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PROFILE

  • 岡崎 友子

    TOMOKO OKAZAKI
    プロウインドサーファー/プロカイトボーダー
    オーシャンアスリート

    ◎写真(上から) Chris Pagdilau/Natsuko Matsumoto/ Hiroshi Ito

Ride for Tomorrow ── 常に謙虚でいるための言葉

WATERMAN’S TALK(今月のウォーターマン)は、毎号一人のWATERMANを紹介していく連載企画です。WATERMANの一般的な定義はありませんが、ここでは「海が大好きで、海に感謝の気持ちを持ち、海の窮状を目の当たりにして、海のために何か行動を起こしている人物」とします。4回目に登場するのは、かつてウェーブライディングで世界ランキング第2位になるなど、数々の実績を残してきたウインドサーフィン界のレジェンド、岡崎友子さんです。ハワイ・マウイ島を拠点にカイトサーフィンのパイオニアとしても活躍してきた彼女は今、これまでの豊かな経験と知見をもとに、子供たちの環境教育にも取り組んでいます。

━━━ ウインドサーフィンを始めたきっかけを教えてください。

私は鎌倉・由比ヶ浜の海のそばで育ったんですが、中学1年生の時、ものすごい台風の日に海の様子を見に行ったら、ウインドサーフィンをやっている人がいたんです。ザーザー降りの中、その人はセイルを海に落としては引き上げることを何度も繰り返していて……その姿にしばらく目を奪われながら、ウインドサーフィンってそんなに面白いものなのかという好奇心を持ったのがきっかけです。実際に始めたのは高校に入って、ウインドサーフィンのレッスンを受けてからのことです。お小遣いを貯めて、道具を買い揃えたんですけど、ウェットスーツは袖無しのものしか買えなかったので、セーターを2〜3枚着て、その上にウインドブレーカーを重ね着してやりました。もともとは身体が丈夫な子供ではなかったので、マリンスポーツをやるなんて考えてもみませんでした。

━━━ ウインドサーフィンのどのようなところに魅かれたのでしょう。

ウインドサーフィンというスポーツをやりたいという意識はあまりなかったんです。大波の中に出ていった時に感じる自然のエネルギーとか、波と波の間にいるときの感覚とか、自分が乗っている小さな波でさえこんなふうに感じるのだから、もっと大きな波に乗ったらどんなふうに感じるんだろうという思いがモチベーションになっていました。今でもその思いは持ち続けています。台風のときに見た光景も同じで、こんな中にいるのはどんな気分なんだろうという興味が印象として残ったんだと思います。

━━━ 若い頃からマウイ島を拠点にされていますが、どうしてですか?

大学に入ったら思い切りウインドサーフィンをやることを目的にがんばって、当時、ウインドサーフィンでは全国NO.1の実力校だった慶應義塾大学に合格し、合格発表を見に行ったあとすぐウインドサーフィン部に入りました。女子だからなんて通用せず厳しかったけど、上手くなりたい一心で没頭しました。でもがんばりすぎて、大学1年生の夏に入院が必要なほど腰を痛めてしまいました。その時先輩から、ウェーブだったら腰の負担が軽いと言われ、退院してから自己流でウェーブを始めました。実はもともとレースをやりたかったわけではなく、最初はレースからやるものなのだと勘違いしていただけなので。それからは神のお告げに導かれるようにウェーブ一筋、そしてこのまま日本にいてはうまくなれない、ダメだという思いが強くなり、一年間休学し、お金を貯めてマウイに行きました。

━━━ マウイに行かれていかがでしたか?

マウイの海にはいろいろなことを教わりましたね。一番に学んだことは、自然に対しては謙虚でなければならないということです。それはウエーブが上達すればするほど思いました。少しでも奢った気持ちで波に乗ろうとすると海に即座に戒められます。でも、気持ちを改めてへこたれずに地道な努力を続けていると、海は必ずご褒美をくれます。謙虚でいれば海は決して裏切らないですね。

━━━ 岡崎さんは、多くの偉大なウォーターマンと懇意にされていますが、それは岡崎さんも彼らからウォーターマンだと認められているという証ですね。

確かに私は多くのウォーターマンと親しくしていますが、それは私が純粋に、一所懸命に海と向き合ってきたからだと思います。ヘタでもひたむきにがんばっている人のことは、誰でも応援したくなるものです。私は才能に乏しいから、ウェーブでも人の3倍くらい努力しないといけない。そんな必死な私を見て、根性と海が好きな気持ちは認めてくれてると思います。不器用でみてられなくて思わず手を差し伸べてくれてるのかも?。そんな先輩や仲間に恵まれていることは本当にありがたいです。

━━━ ウォーターマンの一人、歴史的なサーファーのデレク・ドーナー氏の言葉を大切にされているそうですね。

マウイ島にホキパというウインドサーフィンのメッカがありますが、その丘の上で大波を見ながら海に出るべきか迷っていた時のことです。デレクは私に向かって、「Ride for Tomorrow」とだけ言いました。今日は、これからも海と付き合っていくための準備の日として、やめておいたほうがいいよ。彼はそう言ってくれたのです。この大波に乗ったら自慢できるかな、そんな気持ちがよぎっていた私に、デレクは海に代わってそっとアドバイスしてくれたのかもしれません。もし出ていたら、海は容赦なく私を叱りつけ、痛い思いをしたかもしれません。それ以来、自分の中に不純な気持ちがないかを冷静に考える時に、必ず彼の言葉を思い出します。

━━━ 岡崎さんの胸に刻まれている、他のウォーターマンの言葉はありますか?

デレク同様、世界的に知られるサーファーのジェリーさん(ジェリー・ロペス)の言葉ですね。
Surf is where you find it. ── いい波は自分次第でどこにでも見つけることができる、という意味です。悪く見えた波も、いいセッションだったなと思えれば、それはいい波。クオリティのいい波を追いかけようと思えば、いくらでも追いかけられるけど、その波が必ずしも自分にとって一番いい波とは限らない。人生もおなじですよね。海だけでなくいろんなシチュエーションでよく思い出す言葉です。

子供たちに、一生忘れられない自然体験の思い出を

━━━ 岡崎さんは環境活動にも熱心ですが、「Trash 2 Treasure」という子供たちのためのプログラムを実践されていますね。

昔から、海に打ちあがっている貝殻とか丸くなったビーチグラスや瀬戸物の破片が可愛くて拾い集めていたんですけど、この20年ほどでプラスチックごみが砕けたものをよく見るようになりました。ただ、その中にもカラフルなものがあって、これをごみと思わずに、何かモザイクアートとか素敵なものを作る材料だと思ったら、ビーチクリーンも熱心に楽しめるようになるんじゃないかと思って。それで、今はビーチクリーンの際は、片方は不要なごみ、片方は作品用と分けてごみを拾うようにしています。これまで多くの皆さんが参加してくれましたが、子供だけでなく、大人もけっこう楽しんでくれました。このプログラムでは、作品作りをしているときに、漂流ごみや海洋プラスチックごみの話などをして、みんなが環境について関心を持ってくれるよう工夫しています。
「Trash 2 Treasure」は、実は去年(2020年)の春、日本で大きく活動を広げようと考えていたんですが、コロナ禍でそうもいかず。来年はぜひ実現したいですね。GALAと呼ぶ本格的なアートイベントとしても開催したい。JWAの皆さんにもご協力いただけたら嬉しいです。

━━━ 岡崎さんは、キッズキャンプというプロクラムも実施されています。子供たちのためのプログラムを企画されるのはどうしてですか?

東日本大震災の後、巨大防潮堤が造成されたり、私たちの海にとってあってはならないことがいろいろと起きました。もっといい方法があるはずなのに、なんとかならないものかと考えたとき、そういう方針を決定する国とか地方自治体の大人たちの意識を変えることは難しい、だから遠回りに見えるけど、先入観やしがらみに縛られていない子供たちを教育することが一番の近道だと思ったんです。教育といっても、こうしなさい、これはダメという教え方はしません。身体の芯から環境を大切にしなければ! と思うような経験を子供たちにさせること。例えばすごく綺麗な朝日を見てみんなで一緒に感動したり、冒険心をそそられるような所に連れて行ったり、あるいはサップで遊んだり、素潜りをしたり……何か子供たちの心に一生刻まれるような自然体験の機会を作ってあげられたらと思ってキッズキャンプを始めました。巨大防潮堤、他にも自然破壊につながるような施策は、東北だけでなく、全国各地で計画されていると聞きます。キッズキャンプを経験した子供たちが、自然を大切にする決断をする大人になってくれることを心から願っています。

日本の若いウインドサーファーへのメッセージ

夢を持ってほしい。どんなに大きな夢でも、自分を信じることができれば必ず実現できます。できない理由を考えるのではなくどうやったらできるかを考える。努力は必ず報われます。そして好きなことなら頑張れる。ぜひ、好きなことをがんばって続けてください!