海洋考現録
東京湾に生命の輝きを
求めて #4
PICTURE & WORD
2021年9月11日
「人生の最期は、寄り添い合って」
中層にホバリングしたまま動かないコウイカのペア。昼間見かけたときは後方の岸壁に、雌(左)が懸命に卵を産み付けていた。その横には雄の姿があった。夜、同じ場所に潜ると二匹は寄り添い、実に穏やかな表情を見せていた。コウイカのペアは、交接、産卵を終え、わずか一年という短い生涯を終えようとしている。やがて二匹は静かに海底へと沈み、他の生物たちの糧となってゆく。
東京湾の貴重な水産資源であるコウイカ。だが沿岸域の開発により産卵場である藻場が減少し、水中で見かける機会もめっきり減った。千葉県市原市姉ケ崎(2009年)
写真・文◎中村征夫(なかむら・いくお)
1945年秋田県潟上市生まれ。1976年フリーランスの写真家として独立。東京湾をライフワークに取材を重ね、現在も進行中。第13回木村伊兵衛写真賞、第26回土門拳賞、2007年日本写真協会年度賞等を受賞。著書にルポルタージュ「全・東京湾」「遙かなるグルクン」など。