「思考のサイズを自分に合わせて」
鶴田真由さんからのメッセージ
今、地元の鎌倉に暮らすということ
私は、鎌倉の海側で生まれ育った。
それが私の人生においてどう影響しているのかはわからない。地元の友人を見ていると都会に住んでいる人に比べて「生活」を大切にしている人が多いような気がする。そして「自然」に耳を澄ますのも上手い。
私自身は、10代から東京の学校に通い、20代からは東京に住んでいる。20-30代の頃は仕事にフォーカスしたかったので「居心地の良い鎌倉に留まってはダメだ」と思っていた。
しかし40代半ばを過ぎた頃から、鎌倉市より「鎌倉市国際観光親善大使」に任命されたり、地元でアート活動をしているNPOのチームと一緒に作品を創ったりと、地元との縁が再び繋がってきた。きっと、40-50代というのは地元に恩返しをするタームなのだと思う。
そして今は祖母が亡くなって家が空いたので、そこを使わせてもらえるようになった。コロナ禍も相まって、鎌倉で過ごすことが多い。
コロナ禍に「大地の再生」の活動をしている矢野 智徳さんという方にお会いした。空気と水の循環をよくすることにより大地を再生していく活動をしている方だ。一時は仕事も減り時間が出来たこともあって、矢野さんに鎌倉の家の庭を整備していただくことになった。まずは空気が流れるように庭の植物をカットしていく。そして、庭の水捌けがよくなるように庭中に水脈を作っていく。イメージとしては大地に流れる川を庭に作っていくような感じだ。地形を見ながら雨が降った時に水の流れていく方向を見定め、それに沿ってミニチュアの川=水脈のようなものを庭に作っていく。その水脈を作ることによって大地には空気と水の循環が生まれ、微生物も住みやすくなり、植物や動物も生きやすくなっていく、というわけだ。
自然のサイクルに照らして生活する
矢野さんとお話をしているうちに、今の自然環境がいかに危機的状態にあるかを学んだ。一緒に鎌倉の街を歩きながら、山の木々が弱っている様子にも気づけるようになってきた。木々が弱るのは地中環境が良くないからで、地中環境がよくないのは、山から流れてきた水がアスファルトによって滞るようになり根腐れが起こり、微生物が住めなくなり、大地が乾燥し、硬い土になってしまったからなのだ。もちろん原因はそれだけではないかもしれないけれど、だから土砂崩れも起きる。
「アスファルトを全て取り除かなくても、時代に合ったやり方で大地を再生することは出来る」というのが矢野さんの持論である。
まずは問題を大きく捉えてみる。大地の循環環境とは地球上に存在するもの全てがそれぞれの役割を持ち、補い合いながら暮らしているという図である。生きとし生けるものたち全てが滞りなく循環し、縁を持って円を成している状態だ。
次にこのことを小さなサイズで捉えてみる。自分の日々の生活は自然の循環サイクルに合っているのか?食べ物、着る物、住むところはどうだろう?家での食べ物のロスは少ないけれど、撮影現場などでお弁当を残すことは多々ある。タンスの中に着ていない服は沢山眠っているし、家で使う冷暖房などの消費電気量は一人分を遥かに上回っているように思う。どの項目をとっても必要以上にエネルギーを消費している=自然とのバランスは合っていない。
「足るを知る」とは「質素な生活をしなさい」ということではなく、「自然のサイクルにあったサイズを見極めなさい」ということなのではないだろうか?きっと私だけでなく、個人個人で見直さなければならないところは沢山あるはずだ。
もちろん正解の形は人それぞれ違う。でも、大きくは生き方が自然の循環に沿えているか否かではないかと思う。
人間の生活は気が遠くなる程自然からかけ離れてしまった。だから、「自分一人で出来ることなんて限られている」と思いがちだ。けれども「個」は「全体」の雛形でもあるので、自分が出来ることから始めれば良い。
まずは自分の持ち物を整理し、住まい方を考え、家の庭の大地の再生を試みてみよう。
自分には一体何が出来るのか?
今日も砂浜を歩きながら、ここで生まれ育ったことに感謝して、自分サイズで出来ることを考える。
文・写真◎鶴田真由(つるた・まゆ)
女優。1988年女優デビュー。その後、ドラマ、映画、舞台、CMと幅広く活動。1996年には「きけ、わだつみの声」で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。近年はドラマ「株価暴落」「犯罪症候群」「おもひでぽろぽろ」、映画「DESTINY鎌倉ものがたり」「海を駆ける」「日日是好日」など話題作に出演。旅番組、ドキュメンタリー番組への出演も多く、番組出演をきっかけに、2008年第4回アフリカ開発会議(TICAD Ⅳ)の親善大使に委任。著書に旅エッセイ「ニッポン西遊記 古事記編」「神社めぐりをしていたらエルサレムに立っていた」(共に幻冬舎)など。