CULTURE

「風」の生まれる場所

PHYSICS
2021年8月28日
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風はなぜ生まれるのか

風は一体どこから吹いてくるんだろう?どうして吹いているんだろう?
幼い頃、そんな疑問を抱いたことがある方も多いのではないでしょうか。
いつかどこかで習った“風の生まれるしくみ”が、頭の片隅に、何となくの記憶で残っている方もいるかもしれません。私たちの暮らしのすぐ傍にある風。そのしくみを辿っていくと、地球のダイナミックな営みが見えてきます。

風の生まれるしくみには様々な要素が関わっていますが、なぜ風が生まれるのか、その根本にあるのは、太陽の力です。太陽に照らされ、温められた空気は、ふくらみ、軽くなって空高く上昇します。また空高く昇った空気は、やがて冷やされ縮むことで、重くなり、下降してきます。こうした空気の特性が、局地規模から地球規模まで、様々なレベルで空気の流れを生み出し、「風」となって私たちの元に届きます。

たとえば、太陽のエネルギーを一番多く受ける赤道付近では、温められた空気が上昇し、上空で南北へと流れ、気温が下がるにつれて、北緯南緯それぞれ30度付近で下降してきます。その空気が、ふたたび赤道付近へと流れることで、風が生まれます。

その空気の流れに地球の自転の影響が加わることで、風の向きが決まっていきます。地球は、時速約1700キロという猛烈なスピードで自転していますが、緯度によって円周の長さが変わるため、そのスピードは円周が一番長い赤道で最も速く、そこから南北に向かうにつれて遅くなります。地球を覆う大気のおかげで、私たちが自転のスピードを感じることはありませんが、大気が円周の違いから生まれる自転のスピードの差に追いつけなくなることで、貿易風や偏西風など、一定の方角から吹く風の風向きが生まれています。

海と陸での空気の温まり方の違いも、風を生み出します。「温まりやすく冷めにくい」という水の性質が、大きな規模ではたらくことで風が生まれるのです。日本周辺では、夏の間、ユーラシア大陸で温められて上昇した空気が、上空で太平洋に向かって流れた後、下降し、南東の風となって日本に吹きます。冬は逆に、海で温められた空気が上昇し、上空でユーラシア大陸へと向かって流れ、そこで下降した空気が、冷たい北西の風となって日本に吹き込んできます。

実際には、他にも多くの要素が組み合わさり、世界各地で多種多様で特色ある風が生まれていますが、元を辿れば、すべての風は、太陽の恵みによって生み出されています。そしてそれぞれの風には、地球ならではの様々な営みが反映されているのです。

風を知り、地球を感じる

私の携わるハワイの伝統航海カヌー「ホクレア」は、エンジンを持たず、風の力だけを使って進みます。何ひとつ遮るものがない大海原で、彼方から吹く風を帆に受けて進んでいると、その風が一体どこで、どのように生まれたのか、思いを馳せずにはいられません。

はるか彼方の海上で温められた空気が、空高く昇り、行き場を失って流れ、やがて冷やされて、下降してくる。目で見ることはできない空気のダイナミックな動きが、風となって、自分たちの元に届いている。そしてそのエネルギーで自分たちは前に進むことができる。

水平線の彼方で何が起こっているのか、私たちが感じ取れる形で届けてくれるのも、風の存在です。水分を含んだ空気の動きは、雲を生み出し、雨をもたらします。低気圧や高気圧が近づいてくるときは、風向きが少しずつ変化してきます。五感をめいっぱい使いながら、そうした風の微妙な変化を感じ取ることで、海況の変化や嵐の前兆など、海の上で起こる変化をいち早く知ることができるのです。

海から戻ってもしばらくは、日々、風がどこからやって来ているのかが気になります。
南西の風、北東の風など、ふだんは二面的、直線的に捉えがちな風も、それを生み出した地球の営みに意識を向けると、大きな空気のかたまりの立体的な動きを感じることができます。

太陽の恵みと、地球の様々な要素が関わりあうことで生まれる風。そのしくみを知れば知るほど、地球のしくみの面白さに触れることができます。海の上ならずとも、日々、暮らしの中で感じる風はみな、地球の壮大な営みの元に生まれています。いま感じる風は、どこで生まれたんだろう、どんな風に生まれたんだろう、そんなことに少し意識を向けてみると、私たちの暮らすこの星の営みが、ぐっと身近に感じられるかもしれません。

文◎内野加奈子(うちの・かなこ)
伝統航海カヌー「ホクレア」日本人初クルー。歴史的航海となったハワイ―日本航海をはじめ、数多くの航海に参加。ハワイ大学で海洋学を学び、自然と人の関わりをテーマにした執筆活動、絵本制作に携わる。著書に『ホクレア 星が教えてくれる道』(小学館)『星と海と旅するカヌー』『サンゴの海のひみつ』(きみどり工房)など。