JWA REPORT

不要になったカーボン製マストをリサイクル#1――JWAと静岡大学のタイアップ・プロジェクトがスタート!

INTELLIGENCE
2021年7月25日
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PROFILE

  • 岡島 いづみ

    IDZUMI OKAJIMA
    国立大学法人 静岡大学工学部 化学バイオ工学科 准教授
  • 石原 智央

    TOMOO ISHIHARA
    特定非営利活動法人 日本ウインドサーフィン協会 理事長 総務本部 広報委員長

リサイクルが難しい厄介なプラスチック素材、CFRP

 
 

ウインドサーフィンのボードやマストブームの素材には、炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRP)が使われています。このCFRPという素材、強くて軽いという特性から、多くのマリンスポーツのギアにも採用されていますが、厄介な問題を抱えています。それは、リサイクルが難しいということ。したがってウインドサーファーの皆さんの不要になったギアは、粗大ごみとして廃棄され、溜まっていく一方なのです。JWAでは、この問題に取り組むべく、CFRPのリサイクル研究で注目を集める、静岡大学工学部 化学バイオ工学科の岡島いづみ准教授とのタイアップブロジェクトをスタートさせました。

石原

CFRPのリサイクルの研究はいつ頃から始まったのですか?

岡島

20年前ほど前からです。その頃はカーボンの黎明期で、まだCFRPは世の中に出回っていませんでしたが、県の技術センターから、この素材を処理できませんかという相談があったんです。それから1〜2年ほど実験を行っていくうちに、CFRPは広く一般に使われるようになり、これは廃棄後のリサイクルが問題化するだろうとの想定のもと、CFRPの分解の研究をブラッシュアップしていきました。

石原

CFRPがリサイクルされずに、ほとんどが埋め立てに使われているというのは本当ですか?

岡島

そうなってしまっているようですね。リサイクルされる割合は非常に低いのではないでしょうか。CFRPを元の大きさ、つまり長い繊維のまま使って、それをリサイクルすると、繊維の長さを揃えるのが大変です。リサイクルをするには、どうしても繊維を短く切断して同じ長さにしなければならない。そうすると素材としての使い方が変わってしまう。繊維を編み込んで作られている素材なので、プラスチックのように溶かして再度固めるというようなリサイクル方法ができないのがこのCFRPの難点です。

石原

岡島研究室ではどのようにCFRPを分解しているのですか?

岡島

CFRP自体は、炭素繊維とプラスチックの混合物です。そのプラスチックの部分を超臨界流体と言いますが、例えば水とかアルコールですね、その温度・圧力を高めて、その中にCFRPを入れ、樹脂の部分を分解して炭素繊維を回収するというプロセスをとっています。焼却とか熱分解する方法と比べると低めの温度でできるので、炭素繊維の強度劣化が少ないというのがこの方法のメリットですが、高い圧力が求められるという点に課題が残っています。

石原

圧力を高くすると、その設備を作ったりするのにコストがかかったりするということですか?

岡島

そうですね、圧力を維持するため、閉じ込める容器を作るのが難しくなってきます。圧力鍋を思い浮かべていただきたいのですが、普通の鍋よりも圧力鍋の方が肉厚な構造になりますよね。当然、コストも高くなります。

石原

CFRPの分解方法には、他にどのようなものがあるか教えていただけますか?

岡島

他には、プラスチックの部分を蒸し焼きにしたり、熱で焼き切ったりする方法があります。また、分解とは少し違うのですが、粉砕して充填剤として使われることもあります。例えばコンクリートに混ぜたりして強度をあげるということも行われているようです。ただし、炭素繊維を粉砕してしまうと、繊維も粉砕されてしまうので、もう炭素繊維とは異なるものになってしまいます。炭素繊維は高価ですし、できれば炭素繊維として使われることが望ましいですね。

石原

温度を上げて処理すると強度が出づらいということですか?

岡島

そうですね、炭素繊維の強度は落ちると思いますが、大気圧(普段の気圧状態)で行いますので、ハンドリングがしやすく、リサイクルコストが抑えられると思います。

マストをサンプルとして、分解実験するための想定プロセス

折れてしまい、廃棄するしかないカーボン製マストを切り出して持参した
折れてしまい、廃棄するしかないカーボン製マストを切り出して持参した

石原

今回CFRPで作られているウインドサーフィンのマストを切断して持ってきました。これは、どのようなプロセスで分解できるのでしょうか?

岡島

実験レベルでの話になりますが、反応器と呼ばれるステンレス製の容器に、お持ちいただいたサンプルと、超臨界流体のもとになる流体(水かアルコール)を所定量入れて密閉し、予め反応温度になっている所に容器ごと漬け込んで、所定時間かけて反応させるという方法で行います。

石原

樹脂の種類によって圧力が変わってくるということですか?

岡島

そうですね、樹脂と樹脂を固める硬化剤によって設定する圧力・温度が変わってきます。樹脂の種類、硬化剤の種類で分解のしやすさが変わってくるのが、CFRPの分解が難しいところで、大体の温度・圧力の目安は立てることができますが、最適な条件は素材ごとに実際にやってみないとわからないというところがあります。さらに、CFRP製品には樹脂と硬化剤に加えて、塗料も加えてある場合も多いので、やはりやってみないとわからないというところがありますね。1つのCFRP製品に対して、ある程度の目安で分解実験を行い、得られた結果から、条件をきつくするか、緩くするか判断していくプロセスが必要になってきます。

石原

ウインドサーフィンのマストといってもたくさんのメーカーが製造していますが、今後どのような仕組みを作ったらマストがリサイクルされやすくなると思いますか?

岡島

回収する拠点を設けて、できるだけ多くの量を集めるということがまず必要になってきます。量が少ないと、処理するにも割高になってきますから。

石原

メーカーが使用する繊維・樹脂・硬化剤の規格を統一したら処理しやすくなりますか?

岡島

そうですね、同系列のものであれば格段に処理しやすくなりますね。樹脂に関しては同系列のものであれば分解するための条件がわかりやすくなりますし、炭素繊維に関しては、樹脂・硬化剤・塗料を分解し、炭素繊維を回収し再利用する際に扱いやすくなります。炭素繊維の種類によって元の強度も異なってくるので、再利用するときに使いにくくなってしまいますからね。

石原

CFRP製品のリサイクルは、どうしたらもっと行われるようになるのでしょうか。

岡島

おそらくリサイクルで問題になってくるのは、技術そのものもそうですけど、リサイクルされたものをどのように使うか、つまり出口の問題が大きいと思います。出口がないと回収された炭素繊維だけが山積みになっていってしまいます。どういうCFRPが回収されるかで、出口も変わってくるでしょうし、出口がわからないとどのようにリサイクルをしたらよいかもわかりません。CFRPの出口を考えていくことが、リサイクル方法の発展にもつながっていきます。リサイクル製品でどんなものが作れるのかを模索していく必要があります。

今後の研究について

 
 

石原

岡島研究室では今後どのような研究を行なっていく予定ですか?

岡島

今後は海に関するナイロンの研究を行っていきます。最近、漁網が問題になっていますが、漁網も材料の一つにナイロンを使っています。私たちの研究室では、ポリマーを原料に戻す、という研究も行っています。その原料は精製等が必要ですが、また重合してポリマー(同種の小さい分子が互いに多数結合し,それに相当する構造単位の繰返しによって構成される分子,またはそれからなる物質をポリマー(重合体)という)に戻すことができますので、ナイロンでもできないかを研究しています。

石原

本日はお忙しい中、ありがとうございました。次回はマストの分解実験の結果を聞きに伺います。どうぞよろしくお願いします。