CULTURE

海は好きになったら
守らずにはいられない

STUDY
2021年7月25日
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海が想起させる人類史の記憶

全ては海とつながっている。海は生命誕生の場であり、生物を進化させ、生命現象に欠くことのできない水の97.5%が存在する場でもある。地球上のすべての物質は海に溶け、大気のものも海に注ぐ。人類の発生させた物質も全ては海に行く環境終末の場でもある。海は全てを育み、そして受け止めている。

広い海原は私に至福感を与えてくれる。それはアフリカの大地で生まれた人類の祖先、最も弱い生物であるサルが海辺にたどりついたとき、天敵もいなくて滋養にあふれる海の幸に初めて飢えから解放されたからではないかと感じることがある。水平線の先には何があるのだろう?深い海の底には何があるのだろう? 海は、人類の知能の発達に大きく関与してきた。海洋航行を発展させてきた航海術が今や宇宙にもその進路を進めようとしている。宇宙旅行もその原点は海である。

宇宙船地球号の乗組員としての心構え

「シーマンシップ」という言葉がある。「ウォーターマン」に重なる意味を持つ言葉だが、シーマンシップはセーリングの世界で使われている。現代のように頑丈な船、紛うことなき航行機器のなかった時代には、海の航海は危険に満ち困難にあふれていた。その限られた空間の中で、限られた人員で力を一つに問題を解決し、万が一の危険に際してはお互い命をかけて守りあう。それが海で生きるための精神、シーマンシップである。宇宙の中の小さな星、宇宙船地球号に課された課題の解決には、人類がその乗組員としてのシーマンシップの精神を共有することが必要なのかもしれない。

人類は今、母なる海に対し、親を傷つけるがごとき所業をなしている。まるで生体に巣食う癌のごとく、天に唾する行為は地球環境問題として、地球に存在する全ての生物を道連れに人類そのものも持続困難な状況に押し進めている。人類はこの大問題を解決できるのだろうか?その答えは「YES」である。ただし、そのためには人類がシーマンシップの精神や「海を守りたい」という心を持つことが求められる。

海は楽しく、面白く、大切なもの

 
 

海を守りたいという心を育てる。海に遊び、学び、親しむ。子どもの時から……。私たちの団体「オーシャンファミリー」では40年にわたって子どもたちを中心に海の体験教育、生物教育、環境教育を実践してきた。子どものときに海の興味関心が生まれると、その気持ちは長年にわたり持続する。もちろん大人になってからでは遅すぎるというわけではないが、子どもの時にその心が芽生えれば成長とともに大きく深く育っていく。

要点は、「海は楽しく、面白く、大切なもの」。海での活動が楽しければ興味関心が生まれ、興味があればどんどん知識情報が増え、海の重要性、大切さを理解するようになる。そして海のために何かをし、何かをしなければならないようになっていく。「好きになったら守らずにはいられない」のである。海に育まれてきた人類は、今一度海の力を借りて進歩しなければならない。

海を好きになった子どもたちが未来を救うと信じて、今日も私自身、大好きな海で子どもたちと過ごしている。

文◎海野義明(うんの・よしあき)
写真◎認定NPO法人オーシャンファミリー
神奈川県三浦半島葉山町生まれ。東京都三宅島と二拠点活動。認定NPO法人オーシャンファミリー代表理事。海洋人間学会理事。東京海洋大学非常勤講師。日本福祉大学非常勤講師。鹿屋体育大学海洋スポーツセンター客員教授など歴任。共著に「子どもは海で元気になる」、「ESD Workbook Coral Reef Islands」等教材執筆多数。第3回サーフィンアワード環境部門受賞。座間味島サバニレース、奄美シーカヤックマラソン、SUP全日本選手権レース&ウェイブ出場などアスリートとしての実績も多い。